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お知らせ

2020年10月14日(水)

札幌文化芸術交流センター SCARTS

アーカイブ:
Collective P -まちとプラザをつなぐ搬入プロジェクト-
「札幌を訪ねて」
島貫泰介(美術ライター/編集者)

アーカイブ:Collective P -まちとプラザをつなぐ搬入プロジェクト-「札幌を訪ねて」島貫泰介(美術ライター/編集者)イメージ

撮影:リョウイチ・カワジリ

札幌を訪ねて

<Collective P>
2019年の10月3日から5日にかけて、数年ぶりに札幌を訪ねた。目的は『Collective P –まちとプラザをつなぐ搬入プロジェクト-』に立会い、このレポート記事を書くため。18年にオープンした札幌市民交流プラザの開館1周年事業の一つである同企画は、発泡スチロール(スタイロフォーム)製の複数のピースを札幌市内の数カ所から同プラザ2Fの公共空間に「搬入」し、巨大な一つのモニュメントに合体、その後ふたたびパーツを分割し、プラザ内で使われる簡易なベンチやオブジェとしてリユースするという、市民参加型のアートプロジェクトである。
モニュメントを築くまでの前半部は2日間にわたって行われ、初日には新さっぽろ駅から大通り駅までの地下鉄による搬入と、電車事業所前駅からすすきの駅までの市電による搬入(市電降車後は札幌地下街を徒歩で移動し、搬入)を。2日目はそれらのパーツを使って白いタワー型のモニュメントを制作、お披露目するまでが行われた。およそ30名の市民ボランティアが制作に加わり、パーツの加工・搬入・組み立てを和気あいあいと行い、各プロセスの達成を喜び合っていた。


<『搬入プロジェクト』とは何か PartⅠ>
ところで、タイトルにある「搬入プロジェクト」には元ネタが存在する。演出家の危口統之(「悪魔のしるし」主宰)が、08年に創始した『搬入プロジェクト』(以下、『搬入』)である。シンプルな概要は以下。

ある空間に入らなそうでギリギリ入る巨大な物体を設計・製作し、それを文字通り“搬入”するパフォーマンス作品。

横浜国立大学工学部建設学科を卒業後、工事現場で揚重工(荷揚げ屋)として働いた危口の経験から生まれた同プロジェクトは、建築現場における資材搬入のための技術・知識のアート分野における誤用・援用、演劇っぽさ、建築っぽさ、設定に異様にこだわるオタクっぽさ、「ほとんどが初対面の見知らぬ者同士が、なぜか一丸となって無為なことをして歓ぶ」祝祭性など、多面的な性質を潜在しつつ産声をあげ、そして約10年のうちに韓国、スイス、マレーシアなど諸外国も含めた多くの土地で全19回にわたって行われるという、短くも濃厚な歴史を有している。17年3月17日に創始者の危口が肺腺癌で永眠したことで、いわば直系の搬入の命脈は絶たれたが、彼と多くの現場を共にした「悪魔のしるし」の生き残りメンバーらによって同プロジェクトの著作権放棄がなされ(これは生前の危口自身の意志でもある)、思いついたら誰でもやってよし&内容の改変も自由、という放埓な継承と伝播がいまも続いている。
つまり、17年8月に行われた高円寺キタコレビルでの搬入、そして18年1月の豊田市美術館(「ビルディング・ロマンス | 現代譚(ばなし)を紡ぐ」展の関連企画として開催)に次ぐ危口不在の「搬入」の亜種、n次創作的なありようが、今回の『Collective P』でもあるのだ。
この原稿は諸般の事情で改稿を重ねてきたが、『Collective P』以降にも山口情報芸術センター[YCAM]が主催する「搬入プロジェクト 山口・中園町計画ドキュメント」(2020年8月1日〜9月6日。コロナウイルス流行によって、搬入自体の実行は、2021年7月に延期)に関連した搬入のための実験、搬入プロジェクトを題材とするアーカイブ構築にフォーカスした企画などが全国で展開中である。


<『搬入プロジェクト』とは何か PartⅡ>
生前の危口やいくつかの搬入プロジェクトに立ち会った筆者の主観から述べれば、従来の『搬入プロジェクト』と『Collective P』のあいだには相当な性質的な隔たりがある。設置会場である札幌市民交流プラザ2Fへと至る導線は、巨大な吹き抜けの空間と大階段を備えており、搬入における「ギリギリ入る巨大な物体」を不特定多数で運び入れるスリリングさは生じなかった。今回の制作に関わった関係者に聞くところによれば、同施設の利用規約が制約になったらしく、その不可視の「法的なるもの」との折衝から実現へと至るプロセスが、『Collective P』の持つ批評性であったようだが、ほんの数日間現場に立ち会った筆者にとってはそれを感じるのは難しかった。過去の搬入プロジェクトに関連した展示や、先述したYCAMでのドキュメント展示ではそのプロセスを可視化する実践も充実していたので、そういった外縁的な補助線によって得られる説得力や、プロジェクトの創造的で多元的な広がりに欠けていたのは率直に言って残念だった。
しかし裏を返せば、衆目に対して可視化された、発泡スチロール製のピースを数十名が街なかを運び、札幌市民交流プラザに建立する祝祭パートは非常に充実したものであった。危口を含めた「悪魔のしるし」メンバーが主導した過去の「搬入」は、混沌と秩序を同時に呼び込もうとするパフォーマティビティに主眼を置くものであったため、安全性に一抹の不安を覚える瞬間も多くあった(搬入物の設計が足りず、搬入中に切断を強行するなどのハプニングもあったが、致命的な危険や事故が起きなかったのは「悪魔のしるし」版『搬入プロジェクト』の重要なポイントだろう)。それに対して、北海道で活躍する建築家の五十嵐淳、まちづくりプランナーである酒井秀治が主導した『Collective P』における関係各位に対する真摯なホスピタリティや実現性の安定感は、今後も脱中心的に展開していくであろう「搬入」の、新しい雛形を生み出す可能性を秘めているようにも思う。
亡くなる前の危口が、

『搬入プロジェクト』はもはや自分の作品ですらない。そもそもが単純なルールだけで構成された一種のゲームのようなものである。他の誰がやってもいいし、やってほしい。(『CARRY-IN-PROJECT 2008-2013 DOCUMENTS:WORDS and IMAGES』序文より)

と書き残しているように、危口や「悪魔のしるし」の手を離れた「搬入」が他律的に増殖していくプロセスを朗らかな気持ちで見ていきたい。

島貫泰介(美術ライター/編集者)





アーカイブ: Collective P -まちとプラザをつなぐ搬入プロジェクト-

●記録写真(特設ウェブページ)  
https://collectivep.tumblr.com/ 外部リンク  

●記録動画(Youtube)
https://youtu.be/DKxtqOX84Ds 外部リンク

●寄稿  
「Collective P」について。
五十嵐淳(建築家)  

札幌を訪ねて
島貫泰介(美術ライター/編集者)  

搬入プロジェクトの行く末
石川卓磨(悪魔のしるし/建築家)  

「搬入プロジェクト」オープン化の経過とわたしたちが死んでないという問題
金森香(悪魔のしるし 企画・プロデュース)  

●SCARTSシンポジウム アートセンターの未来 (2020.2.24座談会)  
「Collective P -まちとプラザをつなぐ搬入プロジェクト-」から考えたこと  
酒井秀治(まちづくりプランナー/(株)SS計画代表取締役)  

●ふりかえりトークイベント(2019.10.5 ※トーク抜粋)  
五十嵐淳、酒井秀治、岩田拓朗(SCARTSテクニカルディレクター) ゲスト:小野風太(札幌市交通局)  
※近日公開予定

●SCARTS CROSS TALK vol.7(2019.9.25公開、対談記事)  
境界線は、どこにある?居場所をつくるアートプロジェクト
五十嵐 淳×酒井 秀治×矢倉 あゆみ(SCARTSコーディネーター)  

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