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札幌文化芸術交流センター SCARTS札幌文化芸術交流センター SCARTSスマートフォンサイト

ひと・もの・ことをつなぐ。創造性の光をむすぶ。


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ひと・まち・アートを語り合う SCARTS CROSS TALK

札幌にゆかりのあるアーティストや、
文化に関わる活動をされている方を
ゲストに迎えて行う、
札幌市民交流プラザスタッフとの対談。
ゲストの活動の紹介とともに、
札幌の文化芸術活動のいまとこれから、
そして、札幌市民交流プラザに期待される
役割について語ります。

ここから本文です。

1

誰もが参加できて、
誰もが心地良い場を考える。

矢倉
今回のプロジェクトで、札幌独自の企画制作チームを結成することになった時、最初にお名前が浮かんだのが酒井さんでした。2013年の夏に「SAPPORO ART LABO」のレクチャーで聞いた「サッポロ・ミツバチ・プロジェクト」の取り組みが心に残っていて。
酒井
そうなんですね、ありがとうございます。
矢倉
ご自身も現場で手を動かしながら、楽しそうに市民と協働する姿勢を見習いたいと思ったんです。
酒井
「サッポロ・ミツバチ・プロジェクト」は、今年で立ち上げ10年目。都心のビルの屋上に巣箱を設置し、実際にミツバチの世話をしたり、採蜜したりしています。参加者は小学生から80歳くらいまで。世代交流会みたいですね。ハチミツの収益は、子どもたちの環境教育ワークショップや読み聞かせなど、ソーシャルな活動に循環させています。そうした活動も市民と一緒にやっています。
矢倉
どうやっていろんな世代の方を集めたんですか?
酒井
口コミが大きいですね。参加者に楽しんでもらうことを、とても大事にしています。人って、面白いと思ったものは、必ず周りに話したくなるでしょう?そこで興味を持った人が参加して楽しんで、また誰かに話して。そうすると、本当にやりたい人が集まってくれる。
矢倉
酒井さんは札幌市中央図書館の「元気カフェ」など、公共空間の構想づくりにいろいろ関わりがありますが、今回、SCARTSから『搬入プロジェクト』のオファーを受けてどう思いましたか?
酒井
すごくうれしかったです。でも、アートプロジェクトでは作家性を尊重したいので、作家性と市民参加がマッチするか心配もありました。でも最初に五十嵐さんが、「市民を巻き込んで、お祭り的にやれたら面白い」と言ってくださったので、現実味を帯びましたね。
矢倉
作品の設計を五十嵐さんにお願いしたのは、アートプロジェクトの実績はもちろん、さまざまな問題の本質を捉えて、それに対するコンセプトをシンプルな設計に落とし込む「思考体力」を分けてほしいと思ったんです。五十嵐さんの過去作品に感じられた「居場所」としての心地良さも、新しい公共施設の未来を考えるこのプロジェクトに必要だと思いました。

五十嵐
矢倉さんが言った「居場所」というのは、普段取り組んでいる建築でも大切にしていることがらですし、札幌国際芸術祭2014の『コロガル公園 in ネイチャー』のときに、まさに僕がつくりたいと思っていたものです。僕はアーティストじゃないので、建築的なアプローチで、体験によって心地よく感じてもらえるものをつくりたいんです。
矢倉
ユキテラス2017の『Warm air pool(暖かな空気のプール)』も居心地が良かったですね。
五十嵐
冬の屋外展示なので、最初は雪か氷を使った作品を考えたけど、ただの鑑賞物になっちゃうなと。「冬とは何か?」から考え始めた結果、暖かい空気がたまる器があって、湯船につかるようにそこにつかって首だけ-15℃みたいな体験って、すごく面白いんじゃないかと思ったんです。そういう、五感に訴えかけるようなもの、人間の本能的なものに働きかけるような居場所を、アートという形でつくろうと心掛けています。
矢倉
以前、SHIFTのインタビューで「思考の連続性により設計を続けている」ともおっしゃっていたのも印象的でした。
五十嵐
皆さん、子どもの頃からいろんなことを考え続けながら生きていると思うんです。その体験や経験をベースに設計する。つまり僕は建築についてずっと考えているということです。
酒井
五十嵐さんは、根源的な何かをいつも考えている感じがしますよね。暮らしとか、生きるとか、環境の中にあることなどを、フレキシブルに考えているというか。
五十嵐
設計しているときに、その家に住む人のことだけ考えなきゃいけないと思うんですけど、「建築として」みたいなことを考え始めると、ブレが生じてくるんです。それを修正するきっかけが過去の体験とか思考の連続だったりする。そこが乖離すると、居心地の悪い空間ができあがる。公共建築で割とその傾向が出てしまうのは、「公共建築」という言葉や思想概念に引っ張られて、人間不在の考えになっているのでは?という気がするんです。
矢倉
思考の連続で設計を修正していくと、人々にとって居心地のいい空間になるんですね。

2

市民と一緒につくったものが、
整えられすぎていない居場所になる。

矢倉
劇団「悪魔のしるし」による元の『搬入プロジェクト』は、ある空間に「入らなさそうで、ギリギリ入る物体」をつくり、実際に入れてみるプロジェクトですが、最初に記録動画をご覧になったとき、どう感じましたか?
酒井
僕がプロジェクトを考える時は、プロセスをデザインしてゴールを設定します。だから、ちょっと言い方が悪いかもしれませんけど、ほぼ無意味な巨大物体をつくり、それに役者じゃない人を巻き込むこと自体が作品であるという点が、自分が普段やるアプローチと違って面白いと感じました 。ただ、役者じゃない人を巻き込み、その人たちが輝く場をつくる点はまちづくりと同じかもしれません。
五十嵐
僕は、すごいフィクションを打ち立てて、みんなで信じて実践するところが、ホモサピエンス種が太古からやってきたことと同じだと思いました。誰も神を見たことがないのに、あたかもいるかのように信じる状態。あの巨大オブジェって、一種の神みたいな感じですよね。それをみんなで持って運んで、入るか入らないかと言いながら盛り上がり、入れば大喜び。ピラミッドをつくった人たちもきっと同じで、完成した時はすさまじい喜びがあった。それと合致しました。原初的本能で信じて動かされるのが面白いですよね。
矢倉
「悪魔のしるし」の主宰者だった危口統之さんが2017年に亡くなられて、生前の意思を継いだ劇団メンバーによって、『搬入プロジェクト』の著作権が昨年オープン化されました。このプロセスに敬意を持って、札幌オリジナルの『搬入プロジェクト』を考えることになった訳ですが、五十嵐さんがおっしゃったんですよね、「搬入プロジェクトは作品をまちから運んでくるところが面白いから、施設の中で完結するんじゃなくて、まちとつなげるようなことをしたい」と。
五十嵐
この施設は、アート好きや図書好きの人だけが来る場所ではダメで、もっと幅広い人を巻き込みたいと思ったんです。札幌では巨大な物体を制作してから搬入するのではなく、みんなで分散してピースをつくって、まちを巻き込みながら運んで、ここで集まって巨大な物体をつくるのが面白いんじゃないかと。
矢倉
公共交通機関などの管理ルールのギリギリをかいくぐって搬入するという方向性に、担当としてはドキッとしました。
五十嵐
札幌のオリジナルをやりたいという思いは、みんなどこかにあったし、ギリギリ入るというコンセプトを拡大解釈するという点に、オリジナリティがあったと思います。プラザの巨大なロビー空間に、巨大なものを入れても感動が少ないんじゃないかと。それなら、運ぶ行程がめちゃくちゃギリギリっていう方が面白いよねって。電車の車内みちみちに物体を入れたら、相当ギリギリだろうなと。
酒井
何個までOKかって、話しましたよね。
矢倉
そもそも、SCARTSが開館1周年で『搬入プロジェクト』をやりたいと思ったきっかけは、この札幌市民交流プラザの、公共・複合施設としての複雑な構造や管理ルール。規制を守るからさまざまな施設が豊かに共存できるのですが、それがアートを規制することもあります。規制のマイナス面をプラスに変えたかったんです。・・・それにしても、規制の範囲をあえて拡張していくなんて、まったく思いつきませんでした。大変ですが、この施設の本質を捉えたアイデアですよね。

矢倉
ところで今回の、スタイロという面白い素材を使うことになったきっかけは、赤レンガ テラス5Fの眺望ギャラリー「テラス計画」で今年展示された作品ですよね。札幌駅前通まちづくり株式会社によるコンペ「札幌駅前通アワード」のまちづくり部門で五十嵐さんがグランプリを受賞された『多様なきっかけを生む、スタイロの丘をつくる』は、その場所に合った良い作品でしたね。
酒井
あの場所は、道庁の赤れんが庁舎が不思議な角度で見える特別な眺望スペースです。その眺望が、少しのブロックを積むことで別の見え方になったり、居場所になったりする。デザインレベルもすごく洗練されていたし、パッと見て意図がわかる提案でした。スタイロの可能性といい、グランプリにふさわしかったと思います。
矢倉
酒井さんも「テラス計画」でさまざまな活動をされていますよね。
酒井
「まちのデザイン部」として5Fスペースを部室に、まちにかかわるデザインごとを考える取り組みも始めています。
五十嵐
僕、「テラス計画」で個展をしながら、その場に自分の事務所ごと展示したことがあるんです。その時に、眺望テラスはもっと活用できるスペースなのにもったいないなと。あの場所に何が必要か考えた時、テーブルでもイスでもなく巨大な岩のようなものだと思いました。岩の形状は、誰がデザインしたわけでもなく、溶岩が吹き出し、固まり、雨と風にさらされて姿を変えたものです。別にそれ自体が「登ってください」と言っているわけじゃなく、ただそこにあるだけ。人々はそこに座って、景色を眺めたりする。そういう自然物に近い丘をつくれないかと思ったのがアイデアの発端です。木でフレームをつくって合板を張ると建築物になりすぎるので、もともとあるカタマリを削るか、積むかしたい。そこで探し出したのが土木で使う巨大スタイロです。土木は自然の中に物をつくる作業なので、そういう意味でもこの材料は面白いなと。
矢倉
今回も岩の丘のような形になるんですか?
五十嵐
丘よりもっと複雑な、でも決して建築的にならないような構築物にしたいと思います。上部の形は本当に悩んで、結果的に塔っぽくなっていますけど。ただゴツゴツした岩にも見えることを前提に、できるだけ自然物に見えるような造形にしたいですね。
矢倉
今回のスタイロは積み上げた後に、解体してからも使えるようにしますが、それはどういう発想だったんですか?
五十嵐
建築はスクラップ&ビルドが宿命。仕方がないけど罪の意識があります。今回もたった3日で廃棄はキツいなぁと。スタイロは再利用のためにメーカーに戻せますが、カットした一部のものは戻せない。でもこれ、単体で家具になると思ったんです。スタイロって、触れるとポカポカと暖かいんですよ。これだけポンと置いておけば、きっと誰か腰掛けるし、寝転がる人もいるかもと。リサイクルとはちょっと違う、作品の残像。それを家具として使ってみたかった。
酒井
自分には最初、「旅する」ってキーワードがあったんです。五十嵐さんの言葉と重なるけど、郊外で加工されたものが、地下鉄で旅をして、一つの場所に集まって、あるものになって、最後はまた散っていく。そんなストーリーが増えるのが面白いと思いました。バチっとつくりこんだものじゃなく、市民と一緒につくったものが、整えられすぎていない居場所になるのがいい。居心地の良さって、整えられた場所だけだと窮屈になるので、これならちょっと寄り添ってもいいかなっていう幅ができるといいと思うんです。

3

居心地の良さは、互いの寛容さ。
公共施設の目指すところ。

五十嵐
「スタイロの丘」の時は、常連さんもできたんですよ。昼休みになるとスタスターっとてっぺんまで登って、お弁当広げて食べ始める人がいたんです。今回も、自分のお気に入りの場所を見つけて本を読むとか、そんな人ができたらいいなと。
矢倉
「わたしの場所」みたいになってくれるとうれしいですよね。SCARTSは、文化芸術に関するさまざまな問題解決を求められている施設です。個人的には、みんなにとって居心地のいい場所を目指すことが、問題解決の糸口になるんじゃないかと思っています。そもそも公共施設として「居心地がいい」って、どういうことでしょうか。
酒井
仮説的ですけど、管理の境界がはっきり見えると居心地悪く感じるんじゃないかな。使う人にとって、つながっている場所なのにここからは入れないとなったら、居心地が悪い。セキュリティとか、建築的課題を解決するために閉ざすところもあるけれど。
五十嵐
居心地って、寛容という言葉が最も重要なんじゃないかな。お互いの寛容さ。公共建築だから、ある程度管理しなきゃいけない部分がありつつも、寛容であるべき。使う側にも責任があって、いくら寛容といっても単純に自由ってわけじゃない。いい関係を保てる寛容さがお互いにあると、ギスギスしないんじゃないかな。公共建築に限らず、社会全体に言えることですよね。
矢倉
お互いの寛容さから、ここで何かが生まれていくといいですね。
五十嵐
人間同士の関係性だったり、建築物と人間の関係性だったり。いろいろなものが膨大に生まれると思いますよ。何より活気が生まれるんじゃないですかね。活気って漠然としているけど、要は人間を指すわけで。
矢倉
10月3日(木)の12~17時まで、スタイロを使った駅での公開制作と、地下鉄・市電・地下街を使ったプラザへの搬入を一緒に行ってくれるメンバーを募集しています。4日にプラザで積み上げて、5日には搬入を振り返るトークイベントも開催します。まちと公共施設をつないで居心地のいい場をつくるために、たくさんの人が参加してくれたらいいなと思います。