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札幌文化芸術交流センター SCARTS札幌文化芸術交流センター SCARTSスマートフォンサイト

ひと・もの・ことをつなぐ。創造性の光をむすぶ。


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ひと・まち・アートを語り合う SCARTS CROSS TALK

札幌にゆかりのあるアーティストや、
文化に関わる活動をされている方を
ゲストに迎えて行う、
札幌市民交流プラザスタッフとの対談。
ゲストの活動の紹介とともに、
札幌の文化芸術活動のいまとこれから、
そして、札幌市民交流プラザに期待される
役割について語ります。

ここから本文です。

1

ピンチを、チャンスに。
変わる鑑賞方法、新たな試み。

※この対談は、閉館中の5月18日に
行われました。(6月1日より開館)

※1:札幌国際芸術祭2020は、
12月19日より翌年2月14日まで開催予定でしたが、
本対談の公開後である7月22日に、
新型コロナウイルスの影響を考慮し
開催を中止することが発表されました。
詳細は、https://siaf.jp/

細川
新型コロナウイルス感染症の影響で、札幌市民交流プラザは閉館状態※ですね。大変な状況ですが、館長としていまどんなことを感じていますか。
石井
今回のことで3月1日に図書・情報館と2階のフリースペースを閉め、4月14日からは全館閉館の状態です。2018年10月のオープン以来、年間200万人以上の方が訪れ、新しいにぎわいが生まれていた場所から誰もいなくなってしまった光景は、やはり何とも言えませんね。ただ、再開を心待ちにしてくれている方や、ここを自分の新しい居場所にしてくれていた方、それに今回のことで自分にとってここがどんな場所か改めて考えてくださった方もいるでしょう。全てがマイナスではないと思っています。
細川
なるほど、そうですね。
石井
それに、いまは人が集まる従来型の公演や展覧会などができません。さまざまなホールや文化施設が、苦肉の策としてオンラインでのコンテンツの配信を始めました。それが逆に、文化・芸術に距離を感じていたり、入場料がネックになったりしていた方に、気軽にいろいろ見てもらえる機会になった。それはプラスだと感じています。施設が再開した時、ファンの方は「やっぱり生で見るのはいい」と喜んでくれるでしょうし、オンライン配信から興味を持ち、「生で見てみたい」という方も増えている気がします。
細川
こちらでも、そういった試みをされていますよね。
石井
はい、この期間を無駄にしたくなくて。札幌のアーティストの方たちと当館が共同でつくった公演「クリエイティブ・オペラ・ミックス 」を、ゴールデンウィークにオンラインで公開しました。あと、劇場での公演をライブ配信するための技術検証も行っています。ポストコロナでは、これまでとは違う文化・芸術の届け方が必要になるでしょう。それに対していろいろなチャレンジやテストをする、有意義な時間になっていると思います。
細川
劇場のコンテンツがオンライン公開されること自体、珍しいですよね。それだけ状況が激変しているということだと思います。私と石井さんの共通点は、札幌国際芸術祭(以降、SIAF [サイアフ])※1の仕事でご一緒したことですが、ちょうど先日、SIAF2014で石井さんが担当した「BABEL(words) 」※2というダンスパフォーマンスのメイキングもオンライン公開されました。これも、いまの状況だからこそですよね。「BABEL」の担当を経験したことが、この施設の館長という仕事のベースになっていると感じることはありますか?

石井
「BABEL」が実現できたのは奇跡ですね!いまでこそ、私はこういう仕事をしているので、一つの公演をつくる時は専門の制作スタッフがダンスカンパニーのスタッフとやり取りをすることや、そこには共通言語や決まったフォーマット、約束事があることを知っています。いまのSIAF事務局には専門のスタッフが集まっていますが、あの時、担当には札幌市の職員しかいなくて、誰も何も知らない状態からのスタートでした。芸術祭まで一年もない状況から、まさに手探り!テクニカルライダー※3というものが送られてきたり、条件面のすり合わせがあったり。行政の仕事で培った経験で試行錯誤して、なんとか実現に至りました。日本初演でしたが、よく実現できたなと今でも思います。
細川
そもそも、コンテンポラリーダンスはなかなか集客が難しいジャンルだとも言われますね。
石井
会場は2300席のニトリ文化ホールでした。どこにPRしたらいいのか悩み抜き、バレエ教室などをまわって声をかけたりして、なんとか1600人を集客しました。内容はその名の通り、旧約聖書のバベルの塔の物語に由来したもの。言語、テリトリー、民族、国家のアイデンティティなど、さまざまな問題の中で私たちは生きているのだということを、表現を通じて伝えてくれるものでした。彫刻家のアントニー・ゴームリーさんによる、直方体フレームの舞台装置が、問題に潜む見えない壁を表現していて、本当に素晴らしい作品でした。誘われたのでなんとなく見に来たお客さまもいたと思うのですが、最後はスタンディングオベーションが起こりました。大変苦労しましたけれど、皆さんに喜んでいただけたのは非常に嬉しかった。その思いはいまも同じです。SCARTSでは、美術、映像表現、メディアアートなどを幅広くサポートし、hitaruではパフォーミングアーツをお届けしている。そこにやはりSIAFでの経験が生きていますね。
細川
私は「BABEL」の公演は鑑賞する立場だったのですが、新しい作品を紹介する難しさを感じていたことを思い出します。これは継続的なSIAFの悩みとも言えるのですが、作品を存分に楽しんでもらうためには、事前にある程度の情報量が必要で、その無理のないバランスが非常に重要な気がしています。「BABEL」はSIAF2014が日本初演でした。大ニュースのはずが、札幌の皆さんには「?」という状況でしたよね。SIAFで「これは!」と思って紹介した作品が、見る方によっては、接したことがないという意味で「新しすぎてよくわからない」ということが起きます。札幌市民交流プラザでもクラシックな作品とのバランスを考えながら、新しい作品を持ってきていると思います。それを受け入れてもらうための工夫はされていますか?
石井
それこそが、この施設の使命です。文化・芸術と聞くと、「難しくてよくわからない」と思われがちですが、決してそうではなく、意外と私たちの生活の近くにあるということを発信していきたいと思っています。細川さんも日頃言われていますが、札幌は美術やパフォーミングアーツなどの鑑賞機会が首都圏に比べて極端に少ない。そこで私たちは何をするべきか。まず一つは、いままで札幌で見られなかったレベルの作品をお届けして関心を持っていただくこと。具体例を出すと、新国立劇場のバレエやオペラ、東宝のミュージカルなどですね。あと一つは、ここを地元の方々の創作活動と発表の場にすること。ハイレベルな作品に影響を受けた若い世代が中心となり、アーティストや文化団体の方と一緒に独自の作品をつくる。それを北海道外に発信する機能をつくり、うまく循環させていきたいですね。そのためには、私たちがしっかり感度を持って全国で行われているものを知り、タイミングを考えて、札幌の方に見てほしいものを招聘したいと思っています。

※2:振付師のシディ・ラルビ・シェルカウイと
ダミアン・ジャレによるコンテンポラリーダンス作品。
多彩な芸術表現の可能性を示す上で、
SIAF2014での舞台芸術領域における
重要な位置付けとされた。

※3:公演を行う際に必要となる、
劇場のスペックや機材などを
まとめた仕様書。

2

アートは、世の中を映す鏡。
見る人のためにできることとは。

細川
札幌で働くようになってから、私が東京にいた時との美術に関する環境の違いに気付かされます。例えば、最近一番知って驚いたのは、札幌の小学校には専任の図工の先生がいないということでした。それを知ったのも、現在のコロナの影響で、小中学校が休校になって、自宅学習がどんな状況になっているかをSIAFのメンバーで話したからです。その時に、国語や算数といった科目の自宅学習や家庭でのサポートはイメージできるけれど、音楽や図工などは難しいのでは?という話になりました。その話から考えたのは、今後、公共施設が継続的に優れた作品の鑑賞機会を提供することが、ますます重要になってくるのではないかということです。公共施設が提供するプログラムが、学校教育を補完し、鑑賞の機会が増えると理想的だなと思います。SIAFは3年に一度、できるかぎり世界的に新しく意欲的な作品を見せようと頑張るわけですが、見る側の準備ができていないと警戒されてしまうこともあります。札幌市民交流プラザで準備のベースをつくってもらえると、SIAFではもっと自由なことにチャレンジできるんじゃないかなと。これからのSIAFを多くの人に楽しんでもらうためにも、連動できるといいなと思っています。
石井
ここは文化・芸術のプラットフォームになるべき施設。いま、SIAFの中心である現代アートも、多くの方が難解なイメージを持っているように思います。でも実は単純な話で、私たちと同じ時代を生きているアーティストが日常や社会の中で感じていることを、作品を通じて伝えているのです。昔だと絵を描くとか、木を彫るとか、表現の幅が限られていましたが、いまは表現方法が多種多様になっています。それを楽しんでほしいです。いろいろなところで資本主義、経済至上主義にほころびが出てきている中、私たちはこれからどこに向うのかわからない不安があります。それを多くの人に気付いてほしくて、アーティストはいろいろな形で発信しています。それをどう受け取るのかですが、アートに慣れている人と不慣れな人では受け取り方が違いますよね。アートは難しくないということをまずは知ってもらうために、SIAF2020ではアートメディエーション という取り組みを行い、SCARTSにはアートコミュニケーター がいます。SIAFとSCARTSが連動して、鑑賞する皆さんの興味や知識欲をどんどん増やしていきたいですね。
細川
アートメディエーションは、日本ではまだ新しい言葉だと思います。これを実践しているのが、SIAF2020ディレクターの一人であるアグニエシュカさんです。彼女が働いているポーランドのWROアートセンターでは、作品やアートセンターと来場者を繋げる方法として、全ての人がフラットに関わり、コミュニケーションを取りながら作品に親しむ方法が実践されています。その実践をもとに、私たちも3人のディレクター と事務局メンバーとで意見を交わしながら、札幌の皆さんとどう一緒に芸術祭を楽しむことが出来るかを考えています。ですが、他で作られた方法論をいきなり導入し、札幌の皆さんを驚かせるだけになってしまわないように、SIAFならではの方法で、作品をどう見せていくか、どうやってSIAFと皆さんを繋いでいくかを考えている最中です。
石井
現代アート、メディアアートと口にした瞬間「よくわからない」「難しい」と思われてしまいますからね。
細川
難しいものではないと感じてもらうために、市民目線でアートと市民をつなげるための活動を行っている、SCARTSアートコミュニケーターさんの活動はとても重要だと思います。SIAFでは、その「わからない」感覚を少しでも変えようと、昨年11月、現代アーティストのシェモさん、ライナーさんを札幌にお招きして、木材、ダンボールといった身近な素材を使い、皆さんがアーティストに直接関わってもらうワークショップを行いました。その際、コミュニケーターさんにはインタビュー をしていただきました。その後、SCARTSと共催した「さっぽろウインターチェンジ2020 」では、その素材を使った休憩ブースをつくって展示させてもらいました。石井さん、彼らの活動がすごく心に響いていたようですね。
石井
シェモさんはポーランド、ライナーさんはオーストリア出身ですよね。最近よく思うのですが、ヨーロッパのアーティストは、気候変動や持続可能な社会のあり方などへの関心が非常に高く、作品のテーマにしている方も多いですね。ヨーロッパ北部では氷河の融解が進んでいるなど、環境問題が身近なことも関係しているのかもしれません。そういった危機をお二人は作品を通して、悲劇的にではなくコミカルに発信している。科学的な論文などを読み込み、しっかりリサーチした上で作品に昇華している。ひとひねりしているところに、センスの高さを感じました。こういう状況の中、SIAF2020で彼らがどんなチャレンジをしてくれるのかも非常に楽しみです。
細川
一人でも実践しているところがなんとも魅力的ですよね。「一人がやっても意味がない」と思われがちなことを、確固たる知識と思いを持った上で実践して、面白がりながら、率先してパフォーマンスを行う。そして、見た人の意識を変えていく。アーティストの力ですよね。昨今の状況を考えると、すごく重要なことだと思います。今回、アグニエシュカさんも環境の問題に注力しています。例えば、実際に作品を空路ではなく陸路で運ぶことは出来ないのかということも話題にしています。SIAF2020の他の参加アーティストにも、温暖化や持続可能な社会のあり方をテーマにしている人がいます。いまの世の中にちゃんとリアクションするのがSIAFの意義だと思いますし、いましかできない形、新しい方法論をつくらなくてはいけない。毎回が勝負ですね。

3

アイデアで、危機を乗り越える。
SIAF2020の開催に向けて。

石井
新型コロナウイルスは、個人的には長く付き合っていかなければならないものと考えています。いまはテクノロジーの進化で、遠くの人ともオンラインでの打ち合わせなどが容易になりました。そんな中で新型コロナ問題に、3年に一度のSIAFが当たってしまった。いま世界中の芸術に関わる方たちが、自分が考えていることや、芸術祭がどう変化しているかを発信してくれています。みんながどうしたらいいのかを模索しています。人が目の前にある課題を乗り越える時に必要なのは、新しいアイデアを生み出すこと。それを繰り返し、私たちはいまの豊かな生活を手にしました。今回も絶対に乗り越えていくんですよ、私たちは。
細川
今後はどのような変化を予想されていますか?
石井
一つの場所に多くの人を集めて一緒にライブ感を味わって高揚するというのが従来の文化・芸術の鑑賞方法でした。しかし、今回の新型コロナ問題が転換期となって、鑑賞方法の多様化に繋がっていくのではないかと思います。実際に会場へ足を運べない方も含むあらゆる方へ、文化・芸術を届けていく仕組みを考えなければならない。そういうパラダイムシフトが起こる時に開催されるSIAF。非常に大変な状況ではありますが、楽しみながらチャレンジできたらいいですよね。
細川
そうですね。あまり広くは知られていないのかもしれませんが、札幌はユネスコ創造都市ネットワークに加盟するメディア・アーツ都市※4です。いまこそその意識を持って、ここでちょっと頑張らないといけないのではと思います。石井さんが言った通り、「その場に行って見る」という従来の鑑賞方法を劇的に変化させてみる挑戦の機会なのではないでしょうか。メディアアート作品はデータのみで成立しているものもあり、実物をオンラインで送ることができます。一方、見る環境も、急速に変化し日常にオンラインが浸透しました。コロナの蔓延という喜ばしいとは言えないきっかけではありますが、過渡期の訪れをポジティブに捉えて、SIAFの次の楽しみ方を考えたいと思っています。

石井
そうですね。私も、オンラインでSIAFにアクセスしてもらう仕組みをポジティブに捉えています。自粛期間が始まった頃に滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールが配信した、ワーグナー作曲の「神々の黄昏」という5時間を超えるオペラがあったのですが、とても象徴的だなと感じました。通常の公演だと、2日間の動員数は4000人くらいだと思うのですが、オンラインでは世界中の延べ41万人が鑑賞しました。ミューザ川崎シンフォニーホールでもクラシック音楽をライブ配信したところ、20万近くの人々が鑑賞したとか。劇場の収容人数って決まっているじゃないですか。でもオンラインでは、それをはるかに超える人たちが鑑賞できる。SIAFの「札幌を世界に発信したい」「世界における札幌の存在感を高めたい」という出発点を考えると、札幌に来てもらうだけが方法ではないのかもしれない。札幌から優れたコンテンツを、メディア・アーツ都市ならではの方法で世界に発信できるチャンスかもしれない。
細川
そう思います。でも、その時の状況にもよりますが、やはり札幌の皆さんには来てもらえるとうれしいですよね。
石井
はい、そこは大切ですね。
細川
世界的な認知はもちろん、今回はアートメディエーションで、札幌の皆さんにいかに楽しみながら見てもらえるのかも重要です。そういった意味でも、札幌市民交流プラザは継続的にいいものを提供する場所であり、それをベースに3年に一度、挑戦的なことをするSIAFという連携を築いていきたいですね。
石井
過去2回のSIAFでは作品を見てもらうのと同時に、札幌の自然や都市としての魅力も知ってほしいと会場を点在させました。なかでも行ってほしかったのが札幌芸術の森とモエレ沼公園。でも、この2つは結構距離があるじゃないですか。 市外の方は距離感がよく分からなくて、時間配分が難しかったですよね。でも今回は札幌市民交流プラザができて初めてのSIAF。都心部にこれだけの展示スペースがあるのは画期的なことです。当然私たちもSIAFを全面的にバックアップしていきますが、実際の作品がどれだけ来るのか、来ないのか…。
細川
ご期待ください、ですね。
石井
そうですね。札幌は創造都市。皆さんと創造性を発揮して、この難局を乗り切り、新しいものを一緒に生み出していけたらと思います。

※4:メディア・アーツ都市とは、
ユネスコ創造都市ネットワークの
登録分野の一つで、
デジタル技術などを用いた新しい文化的、
クリエイティブ産業の発展を目指す都市。
札幌は2013年11月に加盟が認定された。