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ひと・もの・ことをつなぐ。創造性の光をむすぶ。


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ひと・まち・アートを語り合う SCARTS CROSS TALK

札幌にゆかりのあるアーティストや、
文化に関わる活動をされている方を
ゲストに迎えて行う、
札幌市民交流プラザスタッフとの対談。
ゲストの活動の紹介とともに、
札幌の文化芸術活動のいまとこれから、
そして、SCARTSのミッションについて
語ります。

ここから本文です。

谷口顕一郎[彫刻家]×樋泉綾子[札幌文化芸術交流センター SCARTS キュレーター]

1

自然への敬意と愛情から生まれる造形。
それが「凹みスタディ」という作品たち。

樋泉
札幌市民交流プラザのオープンにあたり、谷口さんは常設のアートワークの制作を手がけられました。その作品のお話を伺う前に、まずは谷口さんが一貫して制作のテーマとしてきた「凹(へこ)み」について教えてください。
谷口
僕は学生時代、絵画と彫刻を勉強していたのですが、次第に「展示する場でしか成り立たない作品」というもの、例えば展示場にあるすき間を利用した作品などに興味が変わっていったんです。ある日、とある展示場へ下見に行ったときに、地面に大きな亀裂を見つけて「これこそ自分が求めていたものだ!」と思いました。僕は亀裂を「凹み」と呼び、それをモチーフにした作品に取り組むようになりました。これが2000年のことです。
樋泉
「亀裂」というとネガティブなイメージがありますが、どういうところに惹かれたのでしょうか。
谷口
僕は道路や壁などの、壊れたり剥がれたりしたところも「凹み」と呼んでいます。確かに凹みってネガティブなイメージですよね。直さなければならないもの、的な。ただ、その凹みの「輪郭」に注目してみると、さまざまな表情が見えてくるんです。えぐりとるような力強さだったり、ほのぼのとした愛嬌だったり。それが面白かったし、魅力的でした。
樋泉
一つ一つの凹みの「形」そのものに惹かれたんですね。(作品集を見ながら)その「凹み」は、どんな制作過程を経てこうした立体作品に姿を変えていくのでしょうか。

①透明なフィルムに凹みを写し取る

Brunnenstr.10 entrance I, Berlin, Germany
2011, Compressed PVC,
75x17cm

②平面のオブジェクトを切り出して、元の凹みにはめる

Brunnenstr.10, Entrance I, Berlin, Germany, #1
2012, Compressed PVC, Steel, Hinges,
40x19x7cm

Brunnenstr.10, Entrance I Berlin, Germany, #2
2012, Compressed PVC, Steel, Hinges,
39x24x9cm

③蝶番でつなげ、折りたたんで、立体に組み上げる。
折りたたみ方によって違う立体になる

谷口
まずは透明なフィルムに凹みの形を写し取ってきて、アトリエで全く同じ形の平面のオブジェクトをプラスチック板から切り出します。それを持って現場に戻り、パズルのピースみたいに凹みにはめる。ピタッとはまったときは快感ですね!あとはアトリエで平面のオブジェクトを分割し、蝶番(ちょうつがい)でつなげて折りたたむことで、平面だったものが3次元へと劇的に変化していきます。切る、つなぐ、折るを繰り返し、より重層的になって動きが加えられていく。蝶番は、完成した後も作品が形を変えていくための重要なアイテムです。与えられた形をどう面白くしていけるか。これが僕の作品の特徴で、これら一連の仕事を「凹みスタディ」と呼んでいます。
樋泉
自分で一から新しい造形をつくり出すのではなく、自然の作用が生んだ凹みという与えられた形があって、そこに自身のクリエイティビティを加えることで、新しい表現を生み出していくということですね。
谷口
そうですね。今まで45カ国で400個近くの凹みと付き合ってきました。すべての凹みは料理の素材という感覚で、どう料理してやろうと考えるのが本当に楽しくて。オブジェクトを一折りしていくたび、形がどんどん変わっていく。成功と失敗の繰り返しではありますが、その楽しさが凹みをテーマに制作を続けてこられた一番の理由かもしれません。
樋泉
「凹みスタディ」は、人の手でつくったものを浸食する自然の作用によってできた「凹み」に、造形によって価値を与える仕事なんですね。自然への敬意や愛情と同時に、「ものをつくる」という人の営みへの信頼があるように思います。亀裂や破損を「凹み」とかわいらしく名付けたことにもどこか愛情が感じられますね。
谷口
僕も「凹み」の持つ言葉の音やユーモラスさは、気に入っているところの一つです。ヨーロッパでもその国の言葉に訳さず、あえて日本語で「凹み」と言い続けている。面白いですよ、その国のイントネーションで「凹み」って言ってもらえるの。漢字で書いたときの形も、どんなものかすごくわかりやすいですよね。作品の色を黄色にしたのも、負のイメージをポジティブに変換させ、凹みを輝かせてくれると思ったので。
樋泉
今回、札幌市民交流プラザのために制作されたアートワークは、制作手法は同じですが今までとは違う凹みをモチーフにしていますね。
谷口
そうですね。今回は札幌のまちそのものを凹みと捉えているのですが、これは僕が「凹み」と解釈する範囲が徐々に広がっていったことに起点があります。「凹みスタディ」を続けるなかで「もっと面白い凹みはないか」と考えていたときにふと思ったのが、自分の目線を167㎝の視点から上空2000mに持っていったら何が見えるのかということ。そこでいろいろなまちの地図や航空写真を見てみたら、まち自体が一つの塊として「凹み」に見えてきたんです。それがとてつもなく面白い形をしていて!市街地と自然がせめぎ合っていたり、田畑が幾何学的なパターンだったり。まちには独自の歴史があるように、独自の形もある。その形にただただ惹かれ、まちの形をモチーフとした「シティスタディ」というシリーズの制作がはじまりました。
City Study 街の形をモチーフとした抽象彫刻シリーズ

2

故郷・札幌とのつながりから生まれた
アートワークと新たな挑戦。

樋泉
今回のアートワークも「シティスタディ」の一環なんですね。
谷口
札幌市民交流プラザという場で何ができるかを考えたときに、札幌のまちの形を使った作品群というアイデアはスムーズに出てきました。航空写真をもとに札幌の形を取り出しましたが、それは行政区分の形ではなくあくまでも僕の目に映った形です。僕の目に見えた札幌は人間と自然の境界線がせめぎ合いつつも、お互いへの配慮を忘れない、なんというか…そよそよと触れあっているような、そんな心遣いを感じました。まちによっては人間主体の境目を持つところもありますからね。
樋泉
まちの形によって自然と人間の関わりが読み取れるというのは面白いですね。従来の「凹みスタディ」は、人のつくった道路や壁などに自然の力が浸食していってできた形をモチーフにしていましたが、シティスタディは逆ですよね。自然があったところに、人が浸食していったまちの形をモチーフにしている。
谷口
その通りですね。僕もいま気が付きました。今回のアートワークは3作品あって、外側の輪郭は市街地と緑の境目、中に空いている穴は公園や池などで、それらを平面の吊り彫刻として再現しました。いつもだったら平面を僕の独断で切り離すんですが、今回は札幌のまちを血管のように流れる河川に沿ってパーツ分けしました。そうしたら51のパーツになった。それらを図鑑のように並べたものが「札幌かたち図鑑」というタイトルの作品です。さらに51のパーツを蝶番でつないだ立体作品が「札幌の凹みスタディ」、僕の目からみたまちの形を取り出した作品は「札幌のかたち」。これらの総称が「凹みスタディ-札幌のかたちを巡る2018-」です。この「2018」というのが重要。まちって年月を重ねるごとに、どんどん変わっていくでしょう?
凹みスタディ ─ 札幌のかたちを巡る 2018 ─

樋泉
そうですね。西暦がつくことで、作品に歴史性を持たせることができますね。
谷口
「凹みスタディ-札幌のかたちを巡る2018-」というタイトルにもあるように、「巡る」というキーワードを軸に、それぞれの作品を考えました。3つの作品を巡ることで、札幌の形がパーツに分かれたり、組み合わさっていたり、折りたたまれたり、開いたり、見る人の想像の中で自由に動かしてもらえるような仕掛けを考えました。制作中にどんどん面白いアイデアが出てきて、「こんな公共彫刻があったら楽しいだろうな」って、自分が一番ワクワクしたのを覚えています。このワクワクを、見る人も感じてくれたらうれしいですね。
樋泉
これまでの「凹みスタディ」では、谷口さん自身の造形感覚で凹みの形をパーツに分けていたと思いますが、今回は「川」に着目してまちをパーツに分けたとのことでした。なぜ「川」だったんでしょうか。
谷口
やはり、僕の故郷である札幌の友人との関わりが深いと思います。とあるギャラリーを主宰している20年来の友人がいるのですが、彼は河川を軸に札幌の変遷を調べていて、街の成り立ちにとても造詣が深い。20年間みっちりそれを教えてもらった結果、すんなりと「川」で区切るアイデアが生まれました。知識ももちろんですが、技術に対する考え方なども故郷の友人が形成してくれたのかなと、いま感じていますね。
樋泉
まちの形そのものや、まちの移り変わりのストーリーに関わるものとして「川」を捉えているんですね。いつもと違うアプローチで造形する難しさはありませんでしたか。

谷口
いつもだとどこで切るか悩みますが、今回は「川」と決めていたので案外スムーズだったかもしれません。難しかったのは設置過程ですかね。公共彫刻なので建物の基準や作品の重量規定があって、それを考えるのがいつもと違う難しい点でした。でもそれって新しいことにトライできるチャンスでもありますよね。今回で言えば素材です。作品を極限まで軽くするため、飛行機やレーシングカーの機体などに使われるカーボンファイバー(炭素繊維)を選びました。今回ほど大きなカーボン板を切り抜くことはなかなかないそうで、そのためにたくさんの職人さんの知恵と技術をお借りしました。
樋泉
作品のコンセプトや造形を生み出すのは谷口さんご自身ですが、実際こうして作品が展示されるまでには、多くの人が関わっているんですよね。この場所に足場が組まれて、いろいろな方が作業に関わりながら作品が少しずつ組み上げられていく様子を、スタッフみんなでわくわくしながら眺めていました。この建物は直線的でシンプルなつくりですが、ここに作品が入ったことで生命感のある空間になったと思います。
谷口
だとしたら、すごくうれしいです。冬になって、寒くなって、あたり一面が真っ白になったとき、外から見て少しでもひとの心に灯るような作品になれたらいいなと思います。この作品は360度、上下どこから見ても形が違うので、自分だけのお気に入りの角度を見つけて楽しんでもらえたら、本当に幸せ。
樋泉
平面状のものと幾重にも折りたたまれたものが一緒に展示されていることで、作品の成り立ちがわかるところも面白いですね。一枚の平面がパーツに分かれ、それが再び組み合わされて立体になるというプロセスに、躍動感が感じられます。その面白さも見る人に感じてほしいですね。

3

美術家として育ててくれたベルリンへの思い。
故郷・札幌のアートシーンへの期待。

樋泉
今回の制作は谷口さんの故郷・札幌で行いましたが、普段はドイツのベルリンが拠点ですよね。
谷口
はい、ベルリンへ拠点を移したのは2005年です。以前から一緒に仕事をさせてもらっていたギャラリーがドイツにあったので。いま振り返れば、このまま自分に甘えながら作品をつくっていてはダメになるという危機感があったように思います。それを打ち破るためにベルリンへ行った。当然の話ですが、ベルリンだと僕は外国人。日本と違って言葉もわからないから、不自由なことばかりでしたね。だから、何ものにも負けない作品をつくることが自分の存在価値だと思いました。あえて自分を追い込んだ結果、その状況が自分の作品に力を持たせてくれたと感じています。苦しい状況に置くことで美術家としての覚悟ができた。いまは美術家として、毎日朝から夕方まで「職業」として作品制作に取り組んでいます。
樋泉
美術家としての覚悟を固められたことには、ベルリンというまちの環境も影響していると思いますが、ベルリンの人々の間では、アートはどのように捉えられていますか。

谷口
それぞれの方法で楽しむものという感じがします。アートは高尚ではなく、日常的なもの。ヨーロッパ全体で鑑賞はもちろん、所有するものという意識も強いかな。散歩がてらふらりとギャラリーに立ち寄って部屋に飾るものや家族へのプレゼントを探したり。そういう環境って、アーティストにとって心地いいなと思います。
樋泉
SCARTSでは、アーティストの活動をサポートするため、活動に役立つ情報を提供したり、相談サービスを行ったりすることを予定しています。今伺ったベルリンの状況のように、アートを日常に近づけることも私たちのミッションの一つだと考えています。ベルリンではどんな人たちがアーティストの活動を支えているのでしょうか。
谷口
まず作品を所有してくれるコレクターさんの存在が大きいですね。一度おかしなものを見せたらおしまい、だからいいものをつくらなければという、いい意味でのプレッシャーを与えてくれます。次にコレクターさんと僕の作品をつないでくれるギャラリストさんで、美術家にとって最も営利面でのサポートをしてくれる。僕のまわりは「一緒に進んでいこうぜ!」という一蓮托生な関係の人が多いかも。あと公共彫刻のような大きな作品のときには、その制作をまかせられる腕のいい職人さんや全行程で指揮を執ってくれる人の存在も不可欠ですね。今回の作品で、僕は幸運にもそういう人たちに巡り合うことができました。

樋泉
作品を制作する人だけでなく、表現の場を提供する人、技術的なサポートをする人、評価する人、購入する人など、札幌のアートシーンにおいても、関わる人の層を厚くしていく必要があると感じていますし、SCARTSがその一端を担えれば...と考えています。
谷口
そうなるとうれしいですね。個人の家で鑑賞してもらうのももちろんうれしいですが、今回のような大きな作品をつくれることも僕にとって大きな喜びだし、自分の腕の見せどころだと思っています。たくさんの人に見てもらえるのも、すごくうれしいですね。そのために制作を支えてくれる人は大切ですし、今回はそのおかげで新しい手法にもチャレンジできたと思っています。
樋泉
谷口さんから見た札幌のアートシーンについて教えてください。
谷口
札幌はアーティストさんも尊敬できる人が多くて。札幌で何ができるか、各自が独自のスタンス、やり方、場所を選んで美術活動を続けている。まっすぐで、すごくカッコいいです。札幌の風土も関係しているのかな?作品からも、シンプルでクールなカッコよさを感じます。自分もすごく刺激を受けていますね。そういう意味では、僕を支えてくれているものの一つかもしれません。
樋泉
確かに、東京に出ずとも、意識的に北海道・札幌を拠点に国内外で活躍しているアーティストも多いですね。作品の質も高いと感じます。最後に、札幌市民交流プラザや札幌文化芸術交流センター SCARTSに期待することを聞かせていただけますか。
谷口
設備が充実していて素晴らしい場所だと思います。さまざまな文化・芸術活動を紹介するだけではなく、札幌ならではの展覧会などが開かれたら面白いですよね。札幌でしか見られない、札幌ならではのものを見せてほしい。欲を言えば、それを日本中へ、世界中へ、発信してもらえたらと思います。ここへ来たら札幌がわかる、札幌のアートがわかる。そんな場所になってほしいです。
樋泉
ありがとうございます。私たちも札幌のアーティストがいい仕事ができるようサポートしていくこと、札幌発の良質な企画をつくっていくことを目指します。
谷口
ぜひ頑張ってください。僕も頑張ります。