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令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポート

目次

レポート2025年12月25日(木)

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポート

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポートイメージ
劇場誕生から1年7カ月、ジョブキタ北八劇場にまた新たな劇場史が刻まれました。
北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』。
2025年12月14日、1日限りの上演という貴重なステージが無事終幕。
チャレンジングな試みに満ちたドラマチックな全3幕を振り返ります。

新たな上演形式・独自の脚本、期待値高まるマドリガーレ・オペラ

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポートイメージ

 近年盛り上がりを見せている北海道の観劇シーン。少人数の会話劇やミュージカル、バレエなど様々な演目が上演される中でも「オペラを観たことがある」という人はまだ少数派ではないでしょうか。
しかもオペラといえば、基本は西洋芸術です。『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』などの華やかな名作が思い浮かびますが、まさか「実在した日本人を主人公にした北海道生まれの演目がある」ことに大きな驚きを覚えずにはいられません。

その演目こそが、北海道実験劇場の総監督である塚田康弘さんが台本・演出・構成を務めた、広瀬るみさん原作の『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』。
「SCARTS文化芸術振興助成金交付事業」の令和7年度の特別助成事業の一つに採択された作品です。

●採択者インタビューはこちらからご覧いただけます。
https://www.sapporo-community-plaza.jp/scarts_report.html?num=1309

塚田さんの造語である「マドリガーレ・オペラ」とは、舞台上に座す「語り」が物語を進行する新たな上演形式のオペラです。その意欲的な試みが、採択審査の際にも「地方都市でオリジナルコンテンツが創造される潮流の誕生を期待させるもの」 と高い評価を受けました。

他にも「北海道ゆかりの人物に充てる独自の台本」や「映像メディアを組み合わせるなど、文字通り“実験的”公演」など話題性は十分。上演2カ月前から一般販売されたチケットがたちまち完売になるほど、注目度高まるワンデイステージとなりました。

日本語オペラの難題、天然理心流試衛館を受け継ぐ剣士たち

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポートイメージ

1214日の上演当日は関係者によるプレレクチャーからスタート。原作『土方歳三〜炎の生涯〜』(近代文芸社)の著者である作家の広瀬るみさん 、作曲家の二橋潤一さん、殺陣を担当した天然理心流試衛館の高鳥天真さんが登壇しました(佐藤彦五郎新選組資料館館長の佐藤福子氏も来道予定だったが当日の悪天候のため欠席)。

初めに広瀬さんが「この度は塚田さんのご厚意で私の本を立派な歌劇にしていただきました」と謝辞を述べ、続けて二橋さんが「欧米の言葉と異なり長母音がない日本語を楽曲の旋律にのせていく作業が一番大変なところでした」と日本語オペラ独自の難題に取り組んだことを明かしました。

本作は主人公・土方歳三を演じるテノール歌手の田中誠さんをはじめ総勢10人の歌い手と演出の塚田さん演じる「語り」が登場する、オペラの中では少人数の編成です。通常は客席が並ぶ1階前列はこの日、鎌倉亮太氏指揮による北海道実験劇場付管弦楽団のオーケストラピットとなり、オペラの醍醐味である生演奏とともに物語が進んでいきました。

全3幕・上演時間2時間を超える壮大な幕末史を描くため、ステージの最前にはスクリーンがわりの紗幕が下ろされ、そこに写真・資料絵図のほか、船岳紘行氏作のペン画や長田洸明氏による書・墨絵が映し出されました。

投影された写真の中には高鳥さんが率いる天然理心流試衛館の門人たちによる殺陣スチールもあり、血気盛んな幕末ならではの臨場感をもたらしました。


近藤勇や土方歳三、沖田総司たちが所属した天然理心流試衛館、その精神を今に受け継ぐ剣士たちが存在するという事実にもまた、観客の皆さんは胸を熱くしたのではないでしょうか。

クライマックスは10声アンサンブルで「炎の生涯」を熱唱

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポートイメージ

3幕の内容は、文久元年(1861年)5月から明治2年(1869 年)7月までの土方歳三の生涯を追った筋立てです。

3幕中、上映時間が60分に及ぶ第1幕が最も長く、多摩小野路村(現東京都町田市)の土方登場のシーンから始まり、旧幕府軍と新政府がぶつかる鳥羽・伏見の戦い直前、改めておのれの義を貫こうと決意する土方がその思いを歌い上げて第1幕が終わります。

続く第2幕が慶応4年(1868年)の1月から8月に至るまでの鳥羽伏見の戦いと撤退を、ラストの第3幕はいよいよ蝦夷の五稜郭に舞台を移した土方たち旧幕府軍の半年にも満たない動向を描いたことを踏まえると、第1幕が語るべき時間の長さも物語のダイナミズもボリュームゾーン。


土方自作の俳句などビジュアル資料が次々と映し出される演出や紗幕の奥から聞こえてくる日本語オペラに、観客はいつも以上に目・耳の集中力を高める必要がありましたが、節目節目に現れる流麗な書が優れた導き手となり、ステージと観客の一体感が生まれていきました。

生死を賭けた決断が多い劇中、土方と恋人きくのシーンは客席の緊張感も緩むとき。きく役はソプラノの倉岡陽都美さん。「鬼の副長」の顔を脱ぎ捨て恋の道に悩む土方に美しいソプラノで応え、幕末に咲いた恋の場面を盛り上げました。

近藤・沖田との別れが辛い第2幕は、ドラマや映画・コミック等でもよく知られる新選組の終焉期。第3幕になり黒田清隆(大塚博章が近藤勇と2役)や榎本武揚(鴨川太郎が松平容保と2役)という北海道開拓使時代のおなじみの人物が出てくると、観客も自然とクライマックスに向かう心の準備が始まります。

土方の姉のぶ(陣内麻友美)の夫である佐藤彦五郎は、バス・バリトンの中原聡章氏が包容力たっぷりに演じ、物語の終盤、下司貴大氏演じる市村鉄之助に託された土方の遺言を受け止る大役をまっとうしました。


フィナーレは、土方の辞世の句「よしや身は 蝦夷とふ島辺に 朽ちぬとも 魂(たま)は東(あずま)の 君やまもらむ」が映し出され、土方役田中さんの原曲ソロ、変奏、そして最後は10声のアンサンブルで終幕へ。出演者全員による圧巻の熱唱が劇場を包みこみました。

原作者と演出家たちの熱意が結集 、オペラや劇場の可能性を拡大

令和7年度 SCARTS文化芸術振興助成金交付事業 北海道実験劇場『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』観劇レポートイメージ

SCARTS文化芸術振興助成金交付事業」特別助成事業に採択されるには、「これまでの実績をベースに新たなステージへの挑戦が見られると同時に質の高い文化芸術を広く市民に届けること」が求められます。

舞台セットや衣装・照明等にも費用がかかるオペラは、高価な制作費がチケット代にも反映され、“ステージ鑑賞上級者”のための舞台芸術だと思われがちですが、今回の『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』は特別助成事業の支援によりその垣根を大きく下げようというもの。


チケット代が5000円と手を伸ばしやすい価格設定だったことも、「質の高い文化芸術を広く市民に届ける」という目標にかなっていたと感じられました。

日本史上屈指の人気者である幕末の志士、土方歳三に魅せられた広瀬さんの原作と、マドリガーレ・オペラという独自の創作音楽舞台劇に挑み続けてきた塚田さんたちの熱意により完成した北海道発信の『マドリガーレ・オペラ「土方歳三~炎の生涯~」(全3幕)』。

1日限りの開幕でしたが、そのチャレンジングな演出・構成はまさに規制の枠組みを突き破らんとする壮大な意欲作。異分野コラボや郷土史の新たな描き方の提案など後進に残したものは大きく、オペラのステージとしてもジョブキタ北八劇場の可能性をさらに広げるものになりました。