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札幌文化芸術交流センター SCARTS

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本日は開館日です

開館時間 9:00~22:00

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「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポート

目次

レポート2025年12月1日(月)

「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポート

「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポートイメージ


札幌文化芸術交流センター SCARTSでは、令和4年度よりアートセンターの役割や可能性を多角的な視点で考察するため、有識者や他都市のアートセンター等の関係者とオープンミーティングを開催してきました。

今回は、「活動支援」をテーマに、アート以外の領域においても、市民のさまざまな活動をサポートする施設のスタッフをゲストに迎え、相談対応や支援の取り組みを伺い、地域全体での活動支援のあり方やその可能性について考えるオープンミーティングを開催しました。
本稿は2025年10月3日に行われたトークイベント内容をダイジェスト版として編集したものです。

開催概要
2025年10月3日(金)18:30~20:30
会場:札幌市図書・情報館1Fサロン

登壇者
上杉直洋(札幌市市民活動サポートセンター 係長)
松本弘美(札幌市若者支援総合センター 係長)
渋谷しのぶ(札幌市図書・情報館 司書)
吉本光宏(合同会社文化コモンズ研究所 代表)
松本桜子(札幌文化芸術交流センター SCARTS 事業係長)


 

「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポートイメージ

松本桜子(以下、松本(桜)):本日は「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」にお越しいただき、ありがとうございます。モデレーターを務めます、札幌文化芸術交流センター SCARTSの松本と申します。よろしくお願いします。

SCARTSではこれまで、アートセンターの役割や可能性を多角的な視点で考察するため、有識者や他都市のアートセンターの皆さんと共に色々な事例を持ち寄ってディスカッションを行ってまいりました。4回目となる今回は「活動支援」をテーマに、地域の活動支援を皆さまと一緒に考えていきたいと思います。

タイトルを見て、「どんな内容になるのかイメージしづらい」という方もいらっしゃるかもしれません。今回は文化芸術に限らず、市民活動やコミュニティー作りなど、何かを始める一歩を踏み出すためのサポートをする札幌市内の文化施設の取り組みを紹介し、アートと掛け合わせたらどんなことができるだろうという、これからの未来について考えるきっかけの場になればと思います。

ゲストの方を紹介します。札幌市図書・情報館 司書の渋谷しのぶさん、札幌市市民活動サポートセンター 係長の上杉直洋さん、札幌市若者支援総合センター 係長の松本弘美さん、合同会社文化コモンズ研究所 代表の吉本光宏さんです。

ゲストの方が働く各施設やSCARTSの取り組みについて、何となく知っている方も、初めて知るという方にも、札幌市でこういう活動支援の取り組みがあるということを知っていただければ幸いです。そして、地域で行われているさまざまな活動支援と文化芸術のつながりの可能性や、これからの札幌の活動支援の姿について、ゲストとのディスカッションを通して、フロアの皆さまとも一緒に考えていければと思います。

文化芸術の課題を多角的にサポート SCARTSの活動支援

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松本(桜):はじめに、SCARTSの活動支援について紹介します。この建物、札幌市民交流プラザの1階と2階にある札幌文化芸術交流センター SCARTSは、2018年10月7日にオープンしました。開館から3つのミッションを掲げ、札幌のひと、もの、ことをつなぎ、文化芸術活動を支える札幌の文化交流拠点としての役割や機能を事業へと展開してまいりました。

なかでも活動支援事業は、アーティストに限らず、文化芸術活動に携わる方々の、さまざまな課題に対して多角的な視点でサポートします。
たとえば、「創作した作品を発表したい」という方に対しては、SCARTSの諸室を貸室として提供したり、市内のギャラリー・ホールなどアートスペースの情報をウェブで公開したりしています。文化芸術活動を行う方がクリエイティブな活動を継続できる後押しや、次世代の文化芸術の担い手を育てる取り組み等によって「札幌の街に文化芸術が不可欠で大切なものである」という意識が広がっていくことを期待しています。そのためのさまざまなサポートプログラムをSCARTSでは行っています。

具体的に、事業を紹介します。
まずは、企画公募事業です。これは、SCARTS施設を活用した企画を一般公募し、作品発表の場を提供するもの。採択された企画の実現に向けて、設営・撤収のサポート、会場運営スタッフの費用負担や広報支援を行ったりします。今年度はサウンドインスタレーションや、複数のジャンルがコラボレーションしたパフォーマンスなど、多彩な4企画を採択しました。

続いて、相談サービスです。これは、多様な文化芸術活動の課題に対する情報提供や助言という視点から行っていて、文化芸術活動に関わる方であれば誰でも利用できます。これまでに294名、455件の相談に対応しきました。
SCARTSに寄せられる相談は、プロのアーティストに限りません。仕事や日常生活の傍ら創作活動を続けている方、いわゆる市民活動のような形で文化芸術活動を行ってる方も多く、「横のつながりの作り方が分からない」「自分のステップアップの方法が分からない」「もっと活動を広く知ってほしい」という、活動を行う上で誰もが抱えるような課題・悩みを相談されます。こうしたお悩みに対し、SCARTSスタッフが中心となり、財団職員として有するネットワークも生かしながら情報提供や助言等を行い、相談者と一緒に課題解決に向けて考えるように心掛けています。

「個別の相談サービスを利用するのは少しハードルが高い」「もっと広く文化芸術イベントの情報に触れたい」という方には、ぜひSCARTSの2階・インフォメーショコーナーにあるチラシ、それからSCARTSのウェブサイトの掲載情報を利用いただきたいです。特に、2階・インフォメーションカウンターは、イベントチラシの受け取りだけでなく、各種助成金や公募など、色々な情報を収集・整理するスタッフが常駐しており、SCARTSの情報発信機能として大切な役割を果たしています。

また、活動資金のサポートという視点から実施しているのが、SCARTS文化芸術振興助成金交付事業です。
先の企画公募事業は、SCARTSに活動場所を限定していますが、SCARTS助成金は、札幌市内であればご自身の活動に合った場所、好きな場所で開催でき、制作費の一部を助成金交付という形でサポートしています。今年度は特別助成事業2件、一般助成事業14件を採択し、資金面はもちろん、広報面や事務的サポートを行っています。

最後に紹介するのは、SCARTSラーニングプログラムです。
これは、文化芸術活動の「学びの場」を提供する事業で、これまで主に、文化施設の職員や団体スタッフなど、現場で働く方のスキルアップを目的とした講座や、展覧会に出品したアーティストのトークイベントなどを実施してまいりました。

今年度から新たな試みとして、文化芸術を支える仕事に焦点を当てた「おしえて!アートのおしごと」シリーズがスタートしました。メインターゲットは、学生や「これから文化芸術分野でキャリア形成したい」と考えている方々です。1回目は、演出助手という仕事にフォーカスし、札幌出身で道外でも活躍されている演出助手の方を講師に迎えました。
この「おしえて!アートのおしごと」シリーズを企画した背景には、「文化芸術に関わりたいけれど、そもそもどういう仕事があるのか? 何をしているのか? どういうことを学べばその道に進めるのか? といったことが、学校や日常生活の中ではなかなか分からない」という方が多いことと、多彩な文化芸術活動が札幌のあちこちで行われていくためには、表現者だけではなく、彼らを支える担い手・支える仕事をしていく人材も同時に育てないと成立していかないという、業界が抱える問題意識があります。

ですから、「おしえて!アートのおしごと」では、ただ仕事内容を紹介するのではなく、講師が人生を歩む中で「そのジャンルと、どうして出会ったのか」「その仕事を知るきっかけになった、人生の転機みたいなもの」を、その講師でしか語り得ないような切り口からお話ししていただいています。
こうした新しいプログラムに挑戦するのは、文化芸術の担い手を育てることはもちろん、1つの視点・1つのキャリアにこだわらず、長く文化芸術分野に関わり続けながら人生を送ることができる、そんな選択肢を若い世代の方に広げてもらいたい、その一助になればという考えからです。

以上、SCARTSが取り組む活動支援事業を紹介しました。ここからは、ゲストの皆さまに、それぞれの施設の取り組みについて紹介いただきます。最初に、札幌市図書・情報館 司書の渋谷しのぶさん、お願いします。

ビジネス課題の解決へ 専門窓口を開設する札幌市図書・情報館

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渋谷しのぶ(以下、渋谷):札幌市図書・情報館の司書をしている渋谷と申します。まずは施設概要から説明します。
当館の開館時間は平日朝9時から夜9時まで、土日祝日は朝10時から夜6時まで。面積は約1,500平方メートル。蔵書の貯蔵数は約4万冊。職員数は司書16名、事務職員7名です。司書のうち、15名が外部講習である「ビジネス・ライブラリアン講習会」(※1)を受講しています。また、札幌市内に2名いる日本図書館協会の認定司書(※2)のうち、1名が当館に在籍しています。

次に、当館のコンセプトです。従来の図書館と異なり、ビジネスパーソンを対象とした課題解決型・滞在型の図書館となっています。

5つの特徴について、お話します。
まずは蔵書構成です。先ほど約4万冊と言いましたが、これは札幌市の中央区以外の地区図書館の蔵書数に比べて約半分の量です。面積も大変狭くて、保存書庫もほぼ無いといっていい状況。ですので、蔵書のジャンルを3つに絞り込んでいます。「WORK-仕事に役立つ-」「LIFE-くらしを助ける-」「ART-文化芸術に触れる-」の3つです。通常の図書館だとあるような、文学や児童書、絵本のコーナーはありません。

特徴の2つ目です。当館は図書館ですけれど、仕事に使う本はすぐに使えることが重要ですので、最新情報がいつでも手に取れるように、本の貸出はしていません。

特徴の3つ目は、テーマ別の棚です。当館の棚は、司書が考えたオリジナルテーマごとに並んでいて、大テーマ・中テーマ・小テーマと階層になっています。たとえば、「LIFE-209」の棚なら、大テーマが「人間関係」、中テーマが「コミュニケーション」、小テーマが「自分のこころの舵をとる」となり、哲学、心理学、社会心理学、人生訓、公衆衛生学など、さまざまな本が並んでいます。
通常の図書館ですと、日本十進分類法(※3)に則るので、こうした本は1つの棚には並びません。でも、オリジナルテーマ別に並べることで、人の興味・関心を広げることができたり、思ってもみなかった本と出会えたりするメリットがあります。テーマは時代に合わせて適宜変更します。手間の掛かる作業ですが、当館司書の腕の見せどころとも言えます。

また、ミニ展示もあります。これは、旬のテーマに合わせた本を、展示意図を記したキャプションと共に数冊展示するような棚で、当館では「ハコニワ展示」「ハコニワ」と呼んでいます。館内には、最低でも常時8カ所の「ハコニワ」が設置されています。少ない冊数でできるので、話題の本を気軽に、柔軟に、フットワーク軽く作ることが出来るメリットがあります。貸出をしない当館だからこそできる展示形式でもあります。先ほど滞在型図書館と申しましたけれど、人々の足を留める図書館作りの仕掛けの一つでもあります。

ミニ展示より少し規模が大きく、展示冊数も多いのが、特設展示です。セミナー関連資料や他団体との連携展示ですね。今は、札幌文化芸術劇場 hitaruで上演される新国立劇場バレエ団「シンデレラ」に関する展示を行っています。

特徴の4つ目が、セミナーです。「最新の情報は本や情報ではなく、人の頭の中にある」という考えのもと、当館のコンセプトや蔵書構成に合う内容を開催しています。昨年度は34企画行いました。移動本屋、クラフトビール醸造家、キャンプブロガーなど、「今、話を聞きたい方」を招き、延べ約2千名の方にご来場いただけました。

そして特徴の5つ目が、相談機能です。
図書館で行うサービスの1つ、リサーチカウンターにおけるレファレンスサービスがそれに当たります。調べもののお手伝いや、利用者の求めに応じて資料や情報を提供する仕事のことです。
当館はビジネスパーソンが対象ということで、資金繰りや法律関係、起業に関する具体的なアドバイスを求められることもあります。ただ、こうした質問について、図書館では回答できません。そこで当館では利用者の課題を解決に導くため、外部の専門機関による相談窓口を定期的に開設しています。定期的に開催しているのは道内では当館だけです。「専門機関に行くのは敷居が高い」と感じている方も、図書館だと「ちょっと聞いてみたい」と気軽に来られるようで、起業の検討を始めた段階の方々に特に喜ばれているサービスとなっています。

当館は、Free Wi-Fiが使えたり、BGMを流したり、都心の知的空間として過ごしやすい雰囲気作りを心掛けています。座席についても、コンセントを完備してパソコンが利用できるワーキング席や、「静かに本を読みたい」という方向けのリーディング席、打ち合わせができるグループ席・ミーティングルームなど、さまざまなシーンに応じた活動場所を用意しています。さらに、新聞記事検索、企業情報・商圏分析など23種類のデータベースを利用できるデータベース席もあります。これらの座席は予約制ですが、雑誌と札幌・北海道に関する本を置く1階は予約不要で、飲食の持ち込みも可能です。2階のソファー席も自由席です。2階は食べ物の持ち込みは禁止で、飲み物だけOKです。

最後に、来館者数について説明します。開館直後はたくさんの方に来場いただけたのですが、すぐにコロナ禍が始まり、閉館やイベント制限があったことから落ち込みました。そこから少しずつ回復している状況です。今まで申し上げたようなユニークな取り組みが評価され、全国から視察の方々が絶えない状況が続いています。
ただ、札幌市民の中にも、当館を知らなかったり、すでに利用されている方の中にも、十分サービスを知らなかったり、活用できていない方もいらっしゃるので、今後はそういった層にどのように働きかけていくかが課題です。

松本(桜):ありがとうございます。続いて、札幌市市民活動サポートセンターについて、上杉直洋さんお願いします。

※1 図書館員のビジネス支援能力を高めるため、任意団体「ビジネス支援図書館推進協議会」が行う講習会。2025年2月までに24回行われ、約700人が修了した。
※2 司書の専門性向上に不可欠な実務経験と実践的知識・技能を継続的に修得し、公立・私立図書館の経営の中核を担いうると認定された者に与えられる称号。
※3 0~9の数字を用いて内容を分類し、区分を細分化する図書の分類体系。本背表紙ラベルの3ケタの番号がそれに当たる。

市民活動への4ステップを応援 札幌市市民活動サポートセンター

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上杉直洋(以下、上杉):札幌市市民活動サポートセンターの上杉と申します。よろしくお願いします。
施設紹介の前に、私と札幌市若者支援総合センターの松本は、実は同じ法人から来ています。そこで、法人の紹介をさせてください。

私たちが所属するのは、公益財団法人さっぽろ青少年女性活動協会です。
方針に「人とのつながりを通じて青少年の健全育成と青少年女性の社会参加を促進する」ことなどを掲げ、4つの主な事業のうち、松本の札幌市若者支援総合センターは「青少年の健全育成と社会参加に関する事業」、私の札幌市市民活動サポートセンターは「市民活動の振興に関する事業」を中心に行っている施設になります。ほかにも、札幌市南区にある野外教育施設や市内の児童会館、子どもの劇場関係施設の運営も行っています。

改めて、札幌市市民活動サポートセンターの話をします。
場所は、札幌駅北口・札幌エルプラザの2階にあります。主に札幌市内で市民活動を行っている方・団体、これから始めようとする方が利用対象です。登録が必要で、利用料は基本的に無料ですが、一部有料のサービスもあります。

そもそも、市民活動とはどんな活動なのか、説明します。
まず、「自主性・自発性」。誰かにやらされているわけじゃなく、「自分がやりたい、やらならなきゃいけない」と思ったところから始まります。
次に、「非営利」。NPOとはNon-Profit Organization(非営利団体)のことですね。基本的にお金儲けが目的ではありません。ただ、お金を取ってはいけないわけではなく、売り上げ・収益が出てもよいのですが会員に分配しないことが原則です。
そして、「公益性」。不特定多数の人に利益をもたらすような活動を指します。たとえば、絵画教室に通うAさんとBさんが「2人だけでテクニックを磨こう」だと認められませんが、「地域に還元しよう」と活動展開する場合は認められます。
最後に、「開かれた活動」であること。先ほどのAさん、Bさんの活動に、Cさん、Dさんも入れる。色々な人が参加できる、色々な人に向けて公開されていることが、前提となります。

市民活動と聞くと、社会や世の中に訴えるものが多いと感じるかもしれませんが、そればかりではなく、価値創造型と言って、芸術関係で市民活動されている方もいらっしゃいます。

というわけで、札幌市市民活動サポートセンターの紹介に戻ります。
施設の用途は、基本的に打ち合わせや会議です。対面の打ち合わせはもちろん、Wi-Fiも飛んでいるので、オンラインの打ち合わせも出来ます。会議コーナーは予約が必要ですが、打ち合わせコーナーはフリースペースなので、来館時に空いていれば使えます。
そのほか、印刷作業室があります。印刷用輪転機2台を設置し、実費負担とはいえ、安価で印刷できるので、「資料を作成したい」という市民団体さんに活用されています。折り機もあるので、印刷資料を冊子にまとめたりもできます。
施設は、事務所としての活用も可能です。「NPO法人を立ち上げたい」という場合、住所登記が必要になるのですが、ひと区画4m²などの事務ブースを月決めで貸出しています。「物品だけ保管したい」という方には、有料のロッカーも貸出しています。

そして、市民活動相談窓口もあります。ここに来れば、色々な市民活動を知っている相談員に相談できます。

施設では、打ち合わせスペースとしての利用だけでなく、センターが主催するさまざまな事業に参加することも可能です。毎月実施する「交流サロン」は、他団体のスタッフとつながったり、ちょっとした学びの場になったりしています。そのほか、講師を呼んだ講座や、活動成果発表の場としてチ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)で出展イベントを企画することもあります。また、市民団体を紹介する情報誌も発行しています。

札幌市市民活動サポートセンターは、市民活動参加に向かうため、「気づく」「交流する」「学ぶ」「実践する」といった4つのステップに合わせた事業を行うことで、市民活動支援を行っています。

松本(桜):ありがとうございました。続いて、札幌市若者支援総合センターの松本弘美さん、よろしくお願いします。

若者の「やりたい」を「できる」に 札幌市若者支援総合センター

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松本弘美(以下、松本(弘)):札幌市若者支援総合センターに勤務している松本と申します。よろしくお願いします。
札幌市若者支援総合センターは、ここから歩いてすぐ、さっぽろテレビ塔の近くにある大通バスセンタービル2号館の1階と2階に施設があります。現在、「Youth⁺(ユースプラス)」という愛称で施設運営をしていますが、そこに至るまでの歩みを紹介します。

1964年、遠友夜学校跡地、現在は公園になっている中央区南4条東4丁目に第一勤労青少年ホームを開設したのが最初となります。当時、福利厚生が十分に提供されない中小企業等で働く勤労青少年を対象に、健全な育成と福祉の増進を目的に開設されました。

勤労青少年ホームは、1969年から82年の間に、第一勤労青少年ホームのほか6カ所に開設をしました。また、青少年センターを、現在は北海道警察がある中央区北2条西7丁目に開設し、若者の活動をバックアップしてきました。当時は「Let’s(レッツ)」の愛称で施設運営をしていたことから、「レッツというと、聞いたことがある」という方もいらっしゃるかもしれません。

その後、施設運営を進める中で、2007年に札幌市行政評価委員会から「勤労青少年ホームとしての役割は終えている、利用者も一部の若者となっているのではないか。また、施設の老朽化により、廃止すべきではないか」という評価を受けましたが、2009年、札幌市若者支援基本構想が策定され、「勤労青少年の福祉増進という拠点から、ひきこもりなど複雑・多様化する若者の課題に対応し、社会的自立を総合的に支援する拠点へと転換する必要がある」という政策が打ち出されました。
そうした中、これまでの青少年センターと6つの勤労青少年ホームを廃止し、若者支援総合センターと若者活動センターの計5館を設置し、また、愛称を「Youth⁺(ユースプラス)」に変更して現在に至っています。

それでは、Youth⁺がどんなところなのかについてお話をします。Youth⁺は、アカシア・ポプラ・宮の沢・豊平、そして、札幌市若者支援総合センターの計5カ所あり、どの施設も地下鉄沿線に近く、複数のYouth+を利用している若者の姿も見られます。

Youth+の取り組みとしては「交流促進事業」「社会参加促進事業」「自立支援事業」の3つの柱を基に進めています。
居場所づくりや仲間づくり、社会課題や社会に参画するきっかけを作るための事業を展開しているほか、自立支援事業として、さまざまな若者が抱える困難に対し一人ひとりに合わせて寄り添う場として、総合相談窓口を設けています。
札幌市内5カ所全てが、若者の社会参加活動・交流の拠点として設置され、若者の「やりたい」を「できる」に変えていくための応援をしている施設になります。
そして、若者たちの生活に「ちょっと+(プラス)ができる」、そんなことにつながるように、私たちスタッフ=ユースワーカーが、若者との信頼関係を構築する中で、共に活動を進めています。

Youth+のどんなことが「ちょっと+(プラス)」なのかについて、紹介します。
まず、一つ目は、全施設に「ロビー」というフリースペースを用意しています。ロビーは、いつでも、誰でも、無料で開放している空間です。目的があっても・無くてもいい、何をしても・何もしなくてもいい、一人で来ても・仲間と来ても良い、自由に過ごすことができるスペースです。
そこでは、私たちスタッフ=ユースワーカーが、若者の「やりたい」を応援するため、信頼関係の構築を図りながら一人ひとりに寄り添って活動を進めています。たとえば、一緒にゲームやギター演奏を楽しんだり、若者のやりたいことや楽しい企画を一緒に考えたりといった日々の中での関わりを通して、共に楽しみながら、若者のやりたいを引き出すことができるように取り組んでいます。

「ちょっと+」の2つ目は、「相談機能がある」という点です。
学校での人間関係、進路、将来のこと。「ちょっとだけ、聞いてほしいな」ということにも、対応しています。親でもなく、学校の先生でもなく、一人の大人として、いつでも話ができるためにも、若者たちとの信頼関係を日々の中で築き上げながら取り組んでいます。

「ちょっと+」の3つ目は、イベントへの参加やボランティア活動に参画するためのきっかけを提供できる点です。
若者の交流促進・社会参加促進を行う上でのイベント情報、また、ボランティア活動に興味を示す若者も多いため、そのような情報を提供しています。たとえば、「センター祭」といったセンターの主催イベントや、施設近くにある北海道神宮頓宮と連携した秋祭りへの参加など、地域の方々と触れ合うことも大切にしています。そのほか、アートと言えるかどうかですが、イラスト関係のイベントを開催したり、写真部の活動としてさまざまなテーマで写真撮影を楽しむ機会を提供するイベントを開催しています。

「ちょっと+」の4つ目は、レンタルルーム、貸室の利用ができる点です。
個人・グループなど、若者の様々な活動をするための貸室があります。若者にとっては安価な料金で利用ができ、土・日曜日は朝10時の開館から夜10時の閉館まで、ほぼ満室の状態で多くの若者に利用されています。

最後の「ちょっと+」は、団体を支援している点です。
貸室の登録団体の活動の情報を共有し、団体同士のつながりをサポートしています。

松本(桜):ありがとうございました。ここまで、SCARTSも含め4施設の取り組みを紹介しました。吉本さん、お話を聞いていかがでしたか。

支援の仕組み整う札幌市 広がりのヒントが北九州芸術劇場に

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吉本光宏(以下、吉本):吉本です。私は文化政策が専門分野で、今日はコメンテーター的な立場で登壇させていただくことになったんですけれど、アートセンターミーティングは今回4回目。最初の2回は「アートセンター」がテーマでした。昨年は「図書館」で、札幌市図書・情報館も参加され、全国に新しいタイプの図書館が誕生していることを知り、勉強になりました。今日はさらに、もう少しすそ野を広げて、「地域の活動支援」がテーマ。なおかつ登壇者は全員札幌の方で、私だけがアウェーなので(笑)、何をしゃべったらいいんだろうと思いながら話をうかがっていました。

まず、4人の登壇者のお話を聞いて、こう感じました。「札幌で何か始めようとすると、支援をする枠組みや仕組みが、本当に色々整っているんだな」と。

札幌市は、アートセンターを設置することで、アートを通して札幌市民の皆さんが活力を持って活動することを目指されていると思います。“市の活力”について考えた時、そこで暮らす市民が、自分たちがやりたいことを立ち上げ、活発に活動すればするほど、まち全体が活力を持つと言えるのではないでしょうか。(札幌市市民活動サポートセンターの)上杉さんがおっしゃったように、市民活動とは、仕事や趣味とも違い、社会に結び付くような活動を指します。そうした活動ができる市民が増えれば増えるほど、まちに活力があると言えると思うんですね。札幌市は、そうした市民の活動を支える仕組みが本当に整っているな、と感じました。

私は「文化コモンズ研究所」という小さな組織を2年前に立ち上げ、神奈川県の横浜でシェアオフィスを借りて活動しているんですけれど、「札幌でも、同じことができたな」と思ったんです。というのは、上杉さんの札幌市市民活動サポートセンターでは、事務所やシェアオフィスのようなものを借りられるそうですし、資金の相談にも応じてくれます。札幌市図書・情報館にきたら、データベースが使い放題で、仕事のリソース(資源)もあるし。なんだか、札幌でもできたなと思ったんですね(笑)。つまり、それくらい地域の活動支援の仕組みが整っていると実感しました。

次に、SCARTSは、アートという得意分野で「一人ひとりの創造性をささえる」というコンセプトがあり、それはとても大切だと思います。ただ、SCARTSの支援対象と、ゲスト3人のセンター・施設が支援していることが、今、なんだかパラレルというか、別々に動いている気がするんです。それが結びついたり、あるいは共同で出来ることを考えたりすると、もっと可能性が広がるのではないかと感じました。

具体例を1つ、紹介します。
福岡県の北九州市にある、北九州芸術劇場は、公共劇場として、さまざまな事業、新しい演劇作品を作ったりしています。と同時に、「ひとまち+アーツ協働事業」と題し、まちに展開する事業にも取り組んでいるんですね。たとえば、遊覧船やモノレールの中で演劇をやってみたり、航空会社・スターフライヤーと協働して社員が踊ったりなど、面白い企画を色々行っています。

そのなかに「若者応援芸術プログラム」というのがあります。同じ北九州にある「YELL(エール、北九州市子ども・若者応援センター)」という施設とタッグを組み、生きにくさを抱えた若者たちを対象に演劇のワークショップを行ったりする取り組みです。
YELLは、おおむね15歳から39歳ぐらいまでを対象にワンストップの支援をする、札幌市若者支援総合センターと同じような施設です。たとえば、障害があって生きにくさを抱えている若者がいるとします。すると、仕事を見つけるのが大変だったりしますよね。そんな若者が、演劇のワークショップに参加することで、自分に自信を持つようになったり、言いたいことを言えるようになったり、社会に自分の居場所を見つけていけるようになった、というような事例がありました。

ですから札幌でも、SCARTSとそれぞれの施設が一緒に取り組むと、サービスの幅がすごく広がると思うんです。芸術・アートならではの取り組み、可能性が出てくるのではないでしょうか。

相談者との距離感は? 寄り添い方で心掛けること

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松本(桜):今回、「活動支援」というテーマを選んだ理由には、先ほど説明したSCARTSの相談サービス、実はアート以外の領域の相談も多いんです。SCARTSのスタッフではなかなか対応しきれないこともあり、文化芸術の分野以外の方とつながり、地域全体でサポート体制を整えていくことが必要なのではないかと考えたからなのです。
先のプレゼンで私が印象に残ったのは、Youth⁺ 松本さんの「若者の『やりたい』を『できる』に変える」という言葉です。札幌市図書・情報館も、札幌市市民活動サポートセンターも、我々SCARTSも、そういう側面があるのではないでしょうか。

そこで、もう少し、具体的な話を伺います。
私たちの支援対象は、広く言えば札幌市民。その中で、若者だったり、アートや芸術活動をしている方だったり、それらに限らず市民活動をする方と、異なるわけです。皆さんが利用者を支援される時、どういう風に接していらっしゃるのでしょうか。その距離感、寄り添ったサポートで心掛けていることについて、教えていただければ。札幌市図書・情報館の渋谷さん、いかがでしょうか。

渋谷:基本は、笑顔と挨拶ですね。カウンター近くにお越しいただいた方には必ず「こんにちは」と目を見て話すようにして、なるべく柔らかい表情でお迎えすることを心掛けています。

松本(桜):そうですよね。人と人のコミュニケーションなので、基本ができていないと、その先の込み入った相談がしにくいですよね。札幌市市民活動サポートセンターの上杉さんは、いかがでしょう。

上杉:あまり考えたことはなかったですが、まずは顔見知りになることなのかなと思います。利用者と職員という関係性だけじゃなく、ご近所付き合いみたいな感覚でしょうかね。利用者に年配の方が多いのもあり、「昨日あんなことがあったよ」「今日の天気は」といった世間話ができる関係性。それが距離を縮めるのに効果的ではないでしょうか。

松本(桜):ありがとうございます。Youth⁺の松本さん、いかがでしょうか。

松本(弘):私の施設は、基本的に15~34歳までが対象です。そうした若者が来た時は、ロビーで一緒におしゃべりするのはもちろん、カードゲームやボードゲームといった何かツールを通して、まずは関係性を作ることが多いかもしれません。「楽しいね」を共有して、関係性を少しずつ深めながら、関わりを深めていくというような感じです。

松本(桜):3人の話を伺い、実はSCARTSが、一番利用者との距離が遠いのではないかと感じました。2階のSCARTSスタッフがいる事務所って、一般の方が入りにくい場所にあるんです。その手前にあるインフォメーションカウンターに常駐するスタッフの方が、その日の問い合わせに応えるだけでなく、利用者さんとちょっとした話をしたり、顔を覚えたりしてくださっているんですね。そういう意味では、カウンタースタッフの立ち位置が、皆さんの利用者との距離感と似ていると感じました。

支援の終わりどきは? 3施設の現状と理想

松本(桜):色々な相談サポートをする中で、徐々に込み入った個別の相談に踏み込まれるケースも多いと思います。相談対応で最も難しいのは、何をもって支援を終えたとするのか、ゴールはどこなのか、という点ではないでしょうか。
たとえばSCARTSの場合、相談対応に来ていただいたら、それで終わりというのがほとんど。課題が解決したかは分からないけれど、相談回数を増やすことはあまりなく、基本的に1回で終わりなんです。一方、ゲストの皆さんはそうではなく、一度聞いた相談に対して長期的に関わっておられるはず。そういう時、支援のゴールをどう設定されているのか、教えていただければと思います。Youth⁺は、いかがでしょう。

松本(弘):そうですね、ゴール…難しいですね。私の施設では、1回来て解決して「またね」と終わることの方が、むしろ少ない。たとえば、「人間関係でちょっと疲れちゃった」という話をして、元気になって、「また学校行けたよ!」と聞いても、また次の、本人なりの課題や悩みが現れたりするので。その子にとって、継続的に私たちが必要なくなるまで、と言ったら変かもしれませんが…。たとえば、進学・就職など明確なものがあったら、一定のゴールと言えるかもしれません。でも、就職した先、進学した先で、また私たちが必要になることもある。何年か経って、再び私たちの施設に顔を出すケースもあるものですから。何を持ってゴールなのかな?って、逆に考えさせられました。

松本(桜):すみません、難しい質問だったかもしれません。利用者との関係性はもちろん切れるものではないですよね。一方、どこかでサポートには終わりがあるとも思うのですが。

松本(弘):そういう意味では、私たちだけでは解決できない課題がある場合、もっと専門的なところへリファーする(支援を依頼する)こともあります。

松本(桜):自分たちだけでなく、色々なパートナーシップ先と連携を取りながら解決するということですね。札幌市市民活動サポートセンターの上杉さん、いかがでしょうか。
「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポートイメージ画像1

上杉:市民活動も同じだなと思いますが、対象を「人」ではなく、「団体」と考えると、団体が続く限り、支援は終わらないと思います。1つ1つの課題において解決していくフェーズはありますが、言うなれば、その団体が無くなる時、NPO法人なら解散手続きをするところまでが、終わり=ゴール。
要は、NPOや市民団体がどういう時に活動を終えるかと言うと、自分たちが掲げた社会課題・地域課題が解決できた時なんです。もちろん、なかにはメンバーの高齢化や活動資金の都合で辞める場合もありますが。解散のお手伝いまで出来た時、そこまで私たちが伴走できたなら、それがゴールなのかなと思いました。

松本(桜):ありがとうございます。やむを得ない理由ではなく、目的を達成出来たと思った時、その活動を終えることが出来たと言えるのかもしれませんね。札幌市市民活動サポートセンターにそこまでの支援体制が整っているのは、すごいなと感じました。

上杉:実際、解散まで見届けた職員がいるかどうかは別の話です。実績の話ではないですけれど、そこまで出来るのが理想かなと思います。

松本(桜):札幌市図書・情報館だと、いかがでしょう。

渋谷:図書館のレファレンスサービスなら、「こういうことを調べている」という問い合わせがあり、資料を提供してご覧いただくという流れなんですね。ですから、活動の終了まで見届けるというのは…。たとえば、本を執筆しているライターさんに関連資料や新聞記事等を提供して、「ようやく本ができました!」と寄贈しにいらっしゃったら、はっきり支援終了だと分かるかもしれません。

松本(桜):サポートが何か1つの形になることも、確かに支援のゴールの1つでもありますね。また、個人や団体が、より発展的に活動を継続することを見守っていけることも、支援することの意義といえるかもしれません。

支援する/してもらうをひっくり返す?

「アートセンターミーティング -地域の活動支援を考える-」レポートイメージ

吉本:市民活動支援のゴールって、結構、難しいですよね。「どうしていいか分からない」と悩みを持って来られた時、具体的な支援を得て、それが活動に役立つことは当然あると思いますが、本人がその気になる、やる気にさせるということも、1つのゴールなんじゃないかと僕は思うんです。

「やる気にさせる」「行動変異を起こす」ことは、アートの特性でもあります。
たとえば、SCARTSの「おしえて!アートのおしごと」シリーズで演出助手の方を紹介された話がありました。全国の劇場関係者の話を聞くと、今、芸術分野で働こうという人は残念ながら減っているそうです。人件費がどんどん上がり、一流企業の初任給も上がる中、「演出の仕事をしよう」「劇場で仕事をしよう」という人は少なくなってきているのが現状なんです。けれど、「芸術の仕事って、こんな達成感がある」「他の仕事にはない、こんな素晴らしさがある」ということを共有して、やる気にさせることが大事だと思うので、市民活動支援にも、そういう側面が当てはまるのではないでしょうか。

もう1つ。SCARTS 松本さんがおっしゃった寄り添い方について。
皆さんの施設では、相談はセンターや施設のある場所で行っているんでしょうか? 出掛けていくことって、ないんですか?

と申しますのも、SCARTSの業務は、いわゆるアーツカウンシル(※4)的な仕事といえますね。私は今、長野県の文化振興事業団の仕事に携わっていて、「信州アーツカウンシル」という事業では、長野県内の文化活動に対する相談や助成などをしています。それで、助成対象となる個人やグループが決まると、まず、アーツカウンシルの担当者がその団体や個人のところに出向くんです。
役所がお金を出す時って、「書類を出して」「役所に来て」となりますが、信州アーツカウンシルでは、役所の側が行くんです。行って話を聞くと、信頼してくれるそうです。行政が支援するとなると、どうしても、支援される方は、「支援してもらう」という感じになるじゃないですか。そこの関係をどうやってひっくり返すか。そこが寄り添い方のポイントではないでしょうか。そうしたことに通じる取り組みがあれば聞いてみたいのですが、いかがでしょう。

渋谷:先日、高校を訪問して、「高校生ビジネスプラン・グランプリ」(※5)という企画に提出する資料作りの手助けとなる講習を行ったということはありました。

松本(弘):アートからは外れるかもしれませんが、Youth⁺は市内5カ所しかないので、距離的・金銭的な問題で「来たくても来られない」人も実際にはいます。そうした方々へのアウトリーチ事業として、内装を改装したハイエース、私たちは「リビングカー」と呼んでいるんですが(笑)、その車をYouth⁺のない区に持って行き、仲間・居場所作りの場としてもらう取り組みは行っています。

上杉:アウトリーチという概念はあるんですけれど、私たちの施設の場合、外に行って支援するというよりは、登録団体が活躍できる場を作って事業展開することが、それに当たるかもしれません。先ほど挙げたチ・カ・ホの出展イベントは、札幌市市民活動サポートセンターが窓口となってコーディネートしました。

松本(桜):公共施設という性質上、施設に来ていただくことはもちろん大事ですが、それだけではなく、自分たちから支援を求めている人、課題を抱えている人たちのところに行って、何かサポートを考えたり、情報を届けたりすることも大事なのかなと思いました。

※4 芸術文化への助成を軸に、政府・行政と一定の距離を保ちながら文化政策を担う専門機関のこと。1945年の英国が発祥とされる。
※5 将来を担う若者の創業マインド向上を目的に、全国の高校生および高専生を対象として日本政策金融公庫が主催するビジネスプラン・グランプリ。

アート×活動支援の可能性 SCARTSとのコラボ案も

松本(桜):続いて、別の切り口から皆さんに投げかけたいと思います。今回、アートセンターミーティングというタイトルでもあるので、それぞれの施設と文化芸術・アートを掛け合わせ、連携するとしたら、どういうことができるのか、考えてみたいです。先のプレゼンでも、Youth⁺ならイラストや写真などの展示イベントを企画されているということでしたし、札幌市市民活動サポートセンターなら文化芸術活動をされている団体も登録されていると聞きました。上杉さん、何か紹介したい事例はありますか。

上杉:札幌市市民活動サポートセンターの性質上、アートばかりではないのですが…。市民活動している人の中には「どこかとつながりたい」「成果を発表したい」「誰かに伝えたい」という機会を求めていることが多いんです。ですから、そういう人たちと、逆にそういう人たちを潜在的に求めている人を探して、つなげる事業もしています。
たとえば、センターに登録する市民劇団と、子供向けの施設がつながる機会を作れたことは過去にありました。具体的には、ヒーローショーが得意な劇団員の方だったので、敵役になってやっつけられる動きで子どもたちを楽しませたり(笑)、体を使ったワークショップを大人向けのコミュニケーション研修に役立てられたり。数として多くはないですが、実際にありました。

松本(桜):劇団と、違う団体をつなげる役割を果たされたこともあるのですね。Youth⁺の場合は、どんな感じでしょうか。

松本(弘):「イラストを描くのが好き」という若者、すごく多いんです。今は紙のほか、デジタルが上手な子もいて、一緒に描いたりしているのですが、活動をバックアップしているのは、専門的知識を持たない私たちスタッフ。なので、そこに技術的なアドバイスがもらえたりすると励みになるかもしれません。実は今回、登壇するに当たり、他の職員に聞いてみたところ、「自分たちだけで取り組むと詰まっちゃう」「若者と一緒に作り上げるんだけど、私の知識だけじゃ足りないかも…」という声もありました。その辺りで何かコラボできると事業が発展するのかなと思いました。

松本(桜):SCARTSが関わって出来ることがありそうですね! 一方的な支援ではなく、違うもの同士が連携することによって、“共創”つまり一緒に何かを作り上げる事業に発展すると、面白いことが起きていくと思います。札幌市図書・情報館はSCARTSに隣接し、関連図書の展示や今回の企画など色々と連携していますけれど、それら以外でアイデアはありますか。
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渋谷:レファレンスの話で、「札幌で活躍するアマチュア劇団を知りたい」という質問があった時、当館だけでは調べきれず、SCARTSを紹介したことがありましたね。あと、当館はビジネスパーソンが対象なんですけれど、アート・芸術系の本を置いているのは、効率性重視になりがちな経営視点に、ゆとりあるアート的な考え方を取り入れ、広い視野を持つことが役立つからだと思うんですよ。

松本(桜):札幌市図書・情報館は「はたらくをらくにする」というコンセプトの通り、働く人たちをターゲットにされています。将来のビジネスパーソンというところで、若年層を対象にしたSCARTSの事業と組んで、「ここに来れば、仕事に関する本もあるし、将来的なアドバイスも学べるよ」ということを一緒に伝えていけると、また違う展開が出来るのかなと思いました。

活動支援にプロが関わる面白さ 沖縄・若狭公民館の実績

松本(桜):それでは今度は、もう少し先の視点を持ち、我々が連携を図り、地域全体でサポートする体制が整った未来…5年後、10年後についても、考えてみたいと思います。各施設の強み・特性をお互い活用すると、市民にとって支援の選択肢は広がるはず。他都市における、アートセンターとアートに限らない公共施設・団体の連携事例について、吉本さん、教えていただけますか。

吉本:SCARTSと市民活動支援の結びつきで何が出来るか考えた時、思い出した事例があります。沖縄の那覇市にある、若狭公民館です。
そこは公民館なので、地域の色々な活動をサポートしているのですが、館長の宮城潤さんはアート系のNPOを立ち上げた経歴も持ち、アーティストのネットワークがある方。それで、公民館の「ユーチュー部」(※6)という活動の講師に、映像作家の藤井光さん(※7)を招いたんですね。彼のワークショップを、僕は実際に見ました。

公民館の周辺はネパール人の方が多く住んでいて、外国人コミュニティーもあるんですが、地域になかなか溶け込めない現状がありました。そこで、「ユーチュー部」では、その人たちを対象にYouTubeにアップする動画作りを行ったんです。その時、スマホを使った撮影の仕方や編集方法などを藤井さんが色々レクチャーしました。藤井さんは映像や写真表現で国際的に活躍されているトップレベルのアーティスト、つまり、ものすごいプロフェッショナル。でも、参加者は知らないわけです(笑)。その両者を結びつけることで、何か、普段とは違うことが起きていたんです。

若狭公民館といえば、「パーラー公民館」(※8)という取り組みもあります。パーラーとはパラソルを広げた出店のようなもののことで、公民館サービスが行き届かない地域に屋台形式で活動を持っていくユニークな取り組み。設計・監修は、美術家の小山田徹さん(※9)なんです。

つまり、市民活動を支援する場に、トップレベルのアーティスト・プロフェッショナルを結びつけると、無限の化学反応が起こるんじゃないかと思うんです。もちろん、そういう活動を厭わず、むしろ「自分の新しい作品が生まれるかもしれない」と考えるようなアーティストが関わることが条件です。
今日は、こういう場があるので、これまでSCARTSとの接点がなかったかもしれない各施設の皆さんも、どんどん相談して、新しいことが起こるといいなと思います。

松本(桜):ありがとうございます。我々の取り組みって、どうしても「施設ありき」になりがちですが、「ひととひと」、「ひとともの」、「ひとと情報」をつなぐ役割がある。「自分たちで何か作る」というより、そういうことを「したい」と思う人の背中を後押しする存在であることが、共通する役割なのではないでしょうか。そこにアートという視点を加え、一緒に出来ることを考えていけたら嬉しいです。

※6 動画作成について学ぶ市民講座で、外国にルーツのある方が地域住民目線でまちを紹介できるようになることを目的に2021年にスタートした。
※7 1976年、東京生まれの映像作家・アーティスト。
※8 生活圏に公民館がない那覇市北西部・曙地域のあけぼの公園を拠点にした移動式屋台型公民館。2017~19年までNPO法人地域サポートわかさが中心になり運営。現在は曙小学校区まちづくり協議会が毎月開館している。
※9 1961年、鹿児島生まれの美術家。京都市立芸術大学理事長。

自主性と促進の両立について 支援する側のもどかしさ

松本(桜):ここからは、来場者の皆さまからのアンケートに答えていきたいと思います。
「市民活動の自主性を重んじることと、市民活動の拠点として市民活動を促進することは、どう両立していけますか? 各施設で促進のため取り組んでいることがあれば教えてください」という質問が来ています。市民活動に関する内容ということで、上杉さん、お答えいただけますか。

上杉:そうですね。市民活動の自主性を重んじながら、「どんどんやりましょう」と働きかける部分に矛盾を感じられたのかなと思います。でも、札幌市市民活動サポートセンターの方から、「あなたはこの活動をやった方が良いですよ」と働きかけることは、決してありません。ただ、明確な意思を持って「自分は市民活動の方向性でやりたい」と来られた方には「では、こういう風に進めましょうか」とつなぐことができるんですが、なかには「自分はこういう趣味を持っていて、もっと色々な人に機会を提供したいんだけれど、どんな手段があるんだろう?」などと悩んでいる人もいるんです。そういう時、市民活動として進めるのか、それ以外の方向をお薦めすべきか、その時々で違うんですね。専門性も必要なので、スタッフがある程度話を聞いた上で、専門相談員につなぐ、という流れがあるわけです。ですから、つなぐことが、ある意味、促進に当たるのかなと思います。

松本(桜):札幌市市民活動サポートセンターにも相談窓口がありますよね。曜日ごとでしたっけ?

上杉:基本的には火・水・木・金で実施し、さまざまなプロフィールを持つ相談員さんがいます。

松本(桜):NPO団体を立ち上げて長く活動されている方や弁護士、税理士など、色々な専門知識を持ったプロの方が相談対応されているんですよね。そういう方たちへつなぐことで、市民活動の促進というか…。

上杉:思い立った時に、そういうフィールドがあることが大事だと思うんです。「やりたいと思ったけど、取り付く島がどこにもない」だと、結局、芽が摘まれてしまうので。我々としては、“種まき”のため、色々なところに向けて、「あなたのやりたいこと、市民活動で広げていけるかもしれないですね」とアクションすることが、促進なのかなと思います。
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松本(桜):次の質問です。「皆さん色々な支援をされる中、『こうすればもっと支援しやすいのに』と、もどかしく思っていることがあったら教えてください」。利用者の方と対応していると、どこかでもどかしさを抱えることってあるかもしれません。「こういう仕組みがあれば、もうちょっと答えられたのに」という経験談があれば、教えてください。

渋谷:図書館のレファレンスを利用される方って、自分が何を探しているのか、はっきり分からないまま来る方も結構多いんです。あと、「なるべく言いたくない」「詳細は言わないで、自分の求めるところだけ知りたい」という方も意外といらっしゃいます。そこを聞き出すのが、本当に難しいんです。ですから、一番の肝といえるレファレンスインタビューをうまく進めるために、挨拶や笑顔が大切になってきます。それで利用者の心を少しでも解かしてから、「この方は、本当は何を知りたいのか?」をうまく探っています。
レファレンスを利用される前に、自分が何を知りたいのか、ある程度絞ってきていただけると、やりやすいかなと思います。

松本(桜):確かに、どういう方が、どういう内容でサポートを求めて来館されるのかは、事前に把握できません。言いたいこと、知りたいことをうまく引き出す“傾聴力”が求められますね。あと、相手との関係性を短時間でどれだけ作れるのか。

渋谷:本当にそうなんです。「この人に話しても大丈夫」と信頼していただいたり、「この人に言えば、助けになりそうだな」と心を開いていただけると、グッと話が早くなったりします。そのためにはどうすれば良いのか、日々考えています。

松本(桜):そういう点では、Youth⁺は個人レベルのお悩みもあると思います。スタッフの皆さんは、何か特別に研修を受けているのでしょうか。

松本(弘):傾聴や相手に寄り添う研修はもちろん受けています。私たちが答えを見つけるわけではなく、本人の進みたい道、考えていることを、いかに引き出すか、なんですね。相談を受けると、もどかしくてつい言っちゃいそうになる時もゼロではないんですけれど(笑)、本人も、モヤモヤの正体が分からないまましゃべり出すこと、話しながら整理することもあるので、傾聴に徹するときもあります。アドバイスするというより、本人の気づきを促すという意味での働き掛けを心掛けています。

次世代に向けて SCARTSとYouth⁺の思い

松本(桜):ありがとうございます。続いて、「各ジャンルに分けられているアート・アーティスト活動をどうつなげ、コミュニティーレベルで融合させられるのか。どういった形で地域の活動支援が可能なのでしょうか」。我々がどういう連携ができるか、という最後にもつながる質問かと思います。加えて「芸術を生業にしていく術を見い出すことは可能でしょうか」とも書かれています。特に次世代を担う若者たちが、夢や希望を持って「芸術家になりたい」と思った時に、その術を生み出すことは可能なのでしょうか、という問いかけだと思います。なかなか簡単にお答えできないかもしれませんが…。

SCARTSも、ラーニングプログラムの「おしえて!アートのおしごと」シリーズを今年度始めたところなので、成果はまだ見えませんけれど…。8月に開催した演出助手の回はレクチャーがメインでしたが、終了後、「個人的に講師に相談したい」という中学生や高校生、大学生の参加者が20人位並んだんです。講師の方も一人ひとり親切に対応くださり、結局1~2時間延長して個別に答えてくださいました。そこは、私たちスタッフは入らず、講師と1対1の場を設けたので、個人的な悩みなどを打ち明ける時間になったようです。アンケートでも「実際に今仕事している方に直接聞ける機会があって良かった」「親や学校の先生以外の大人の意見を聞けて良かった」という声をいただきました。次世代に向けたプログラムを続けることで、若者たちが希望を持って「芸術を仕事にしてもいいんだ!」と思ってくれる未来が来るのかなと、私たちも期待を込めているところです。

次に、Youth⁺ 松本さんへの質問です。「『親でもない、先生でもない、大人として相談を受ける』という話が印象的でした。相談内容によってはセンシティブな内容もあると思いますが、スタッフはレクチャーを受けておられますか。また、別の施設や専門家に連絡されるのでしょうか」。先ほど傾聴力の研修の話がありましたが、ほかに専門家とつながるようなケースはありますか?

松本(弘):そうですね。必要に応じて、若者というか、人と関わる上で必要な研修を自分たちで計画して受けています。近々ならLGBTQ(※10)に関する研修予定があります。研修を受けてすぐ専門家になれるわけではないんですけれど、知識を持ち、アンテナを張って若者と関わることは大切です。色々な若者がいるので、そういう視点は常に持って活動を進めています。
また、相談を個で受けても、個だけで解決はできません。たとえば、私に話があっても、私だけで解決していません。本人に「職員間で共有はするよ」と伝えた上で、職員間で情報共有し、チームで解決していくことに取り組んでいます。センターの2階には、「さっぽろ若者サポートステーション」という就労等をメインとした何でも相談支援機関があります。そこには専門職員も配置されているので、そこと相談・連携しながら対応している状況です。

松本(桜):ありがとうございます。引き続き、Youth⁺に質問です。「若者を支えたり、寄り添ったり、役に立ったりするため、若者を支えたい施設や大人がいた時に、どのように働きかけますか? あるいは、支える側の育成活動はされていますか?」。

松本(弘):サポートする側の育成プログラムについては特段ないんですけれど、先ほど触れたユースワーカーに関する育成には取り組んでいます。ユースワークの取り組みはヨーロッパ等では先駆事例(※11)がありますが、日本の中でも「次世代のユースワーカーを育てたい」という思いがあります。私たちの次のユースワーカーを育てるため、学生向けに理解を深める講座を開催し続けています。

松本(桜):サポートする側である、コーディネーター的な役割の人たちも一緒に育てて、まちの中に増えることが大事なのではないでしょうか。

松本(弘):まさしく、その通りです。講座の受講生が、そこでの学びを各々の活動の中で生かしてほしいという思いが、あります。私たちセンターの中で一緒に活動する取り組みとしては、サポーター登録という仕組みも設けています。札幌市若者支援総合センターをはじめ、他のYouth⁺も、地域の中、なかには民家に隣接する施設もあるんです。町内会や地域の方々から「若者のために何かしたい」という声をいただき、一緒に取り組む日常的な活動もあります。
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※10 レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーに、Q(クエスチョニング=疑問、もしくはクィア=規範的な性のあり方以外のセクシュアリティ)を加えた言葉で、性の多様性を表す総称のこと。

※11 ユースワークとは地域コミュニティーで子ども・若者の育ちを支える活動のこと。欧州では、国内法でユースワークを規定するフィンランドやアイルランドをはじめ、若者政策を推進する国が多い。

施設が同居するメリットは? 4施設が点在する良さも

松本(桜):「支援対象ごとに場が点在している状況です。支援サービス施設が分かれていることのメリットとデメリット、思い浮かぶことがあれば、聞いてみたい」との質問も来ています。プラス、もし、私たち4施設が、たとえば市民交流プラザの中にあったら?についても、考えてみたいです。現実には起こらないかもしれませんが、吉本さんのおっしゃったアウトリーチという形なら可能かもしれません。
実際、SCARTSと札幌市図書・情報館は同じ施設に同居していて、連携が進んできていると思います。けれど、機能・施設自体は分かれており、日常業務は別ですね。来館される方が「つながっている施設だ」と認識し、あっちこっち行ける仕組みがあると、同じ施設にあるメリットが出せるのかなと思うのですけれど…。

渋谷:そうですね。いろいろ考えていたんですけれど、もしこの4団体が同じ建物にあったら、デメリットでいえば、図書館的立場で言うと「本がたぶん置けないな」と思いました(苦笑)。若者向けの本が置けないので…。
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松本(桜):(笑)札幌市市民活動サポートセンターは、札幌エルプラザという建物の中に4つの施設が入っています。それぞれ違う目的ですが、同じ建物内にあることで相乗効果が生まれる事例はありますか。

上杉:市民活動の拠点施設として札幌エルプラザがあり、「男女共同参画」「消費生活」「環境保全」「市民活動」の4つの施設に分かれているんですね。経験談で言うと、私が担当していた、教育施設系への寄付行為を行っていた団体が、「これからは環境保全に関する子どもたちの教育もしたい」となった時、「それでは環境プラザがあるので、そこの団体とつながりましょうか」と展開したことがありました。
ですから、もし私たちが同じ施設に同居したら、それがアートや若者に置き換わり、そうした“うまみ”が生まれるんだろうなぁと思います。たとえば、「若者の就労支援をしたい」と考えている団体が来た時、若者たちがふらっと立ち寄る施設に行って「ワークショップをやってみよう」みたいなことにつながるなど、相互的に良い関係を作れるのではないでしょうか。

松本(桜):ディスカッションの最初に話した通り、SCARTSの相談内容はアートに限らないのですが、色々な拠点があるとはいえ、せっかくSCARTSに来てくれたのに「うちでは対応できないので、エルプラザに行ってください」と言うのは心理的なハードルが高いんです、申し訳なくて。けれど一方で、プラザの2階にあるフリースペースは物理的に限りがあり、いつも席が埋まっていたり、空席待ちの方がいるという状況でもあります。フリースペースが札幌市内の色々な施設にあることで誰でも利用できることや、ちょっと困ったことがあったときに相談できる場所がここだけに留まらないということは、施設が点在していることのメリットなのではないかと感じました。「市民の居場所が、市内どこかの施設にある」という働きかけを、皆さんと協力・連携しながらSCARTSとしても行いたいと思います。

「この街で活動し続けたい」 そう思わせる仕組み作りを

松本(桜):今までの話で、「こんな連携をしたら、面白いのでは?」というアイデアを思いついた方、フロアの皆さまの中にいらっしゃったら、ぜひ伺いたいです。何でもいいので、挙手ください。

来場者:僕はアメリカ・ニューヨークに36年住んでいたんですけれど、あまりのサポートの違いに、ちょっとドギマギしながら暮らしています。アメリカでは、もっとコミュニティーがinvolve(インボルブ=関わる、巻き込む)していたんです。学校などの教育側と図書館、コミュニティセンターとか。
あるいは、ドネーション(寄付)に税金が掛からないので、金持ちが「どんどんやって」「次につなげましょう」と応援してくれるのですが、未来の子供のことを口にするわりには、企業にいざ賛同してもらおうとすると「うちのうまみは?」という話になることもあって。そんなことで出来るわけないと思うんですね、ものづくりにずっと携わってきた人間としては。

それで、提案したいのは、本に関することです。たとえば、若い子が必要とするような本、「Youth⁺に置くべき」という本を、ここから派遣することはできないのでしょうか。つまり、Youth⁺に本を提供するわけです。そういった“まぐわり”を作る方法が、あるんじゃないかと思うんです。

僕はイサム・ノグチ(※12)の美術館がある地区に住んでいたのですが、そこにはチャーター・スクールという親などが仕切る学校があり、「勝手にアートを作ろう」というプログラムがありました。スプレーを使っても壁に何か貼ってもOKで、非常に面白いものが出来上がる。クリエイティビティを育ませるきっかけがあるように思います。コミュニティー同士がつながることで、そういうものを期待したい。僕が日本でショックだったのは、母親が子どもに「ダメ!」と叱る行為です。もう少し、コミュニティーに出来ることがあるのではないかなと感じます。
皆さんお立場もあり、発言に気をつけなきゃいけないと思いますけれど(笑)、何かそういう“まぐわり”、「今ここでは出来ないけれど、こことここが混ざったら、これなら出来ますよ」という部分を作ることは、可能でしょうか。

松本(桜):ありがとうございます。まさに、アートセンターミーティングの趣旨に通じるご意見だと思います。つまり、色々な人とつながることで、「できない」と今まで思い込んでいたことを乗り越えていける仕組みを作っていきたい、みんなで考えることが出来たら…ということです。吉本さん、いかがでしょうか。

吉本:まず、先ほど「4つの施設が一緒の場所にあったら?」という問いがありました。実際、同じ施設に入ることは物理的に難しいと思うので、サービスで4つの施設が連携するのが良いのではないでしょうか。
札幌市図書・情報館は、仕事や生活を応援するところですよね。たとえば、SCARTS 松本さんが相談に来た方にSCARTSのノウハウや情報で対応した後、「もっと知りたいと思ったら、札幌市図書・情報館に行ったら、良い本を紹介してもらえるかもしれません」という風につなげるのです。

それから、これはアイデアですけれど、SCARTSの松本さんが、1日ここに居てみるというのはいかがですか? 「今日はSCARTSの松本さんが札幌市図書・情報館にいます」という日を設けるんです。もちろん、逆もありです。というのも、施設は動けないけれど、人は動けるじゃないですか。それをやったら、何か変わるんじゃないでしょうか。

それと、「芸術家を生業にするには」という質問がありました。先の発言に出たニューヨークと比べると、確かに札幌や日本の状況は厳しい。ニューヨークは、アーティストがアーティストとして活動し続けようという気にさせてくれるインフラが山のようにある。そういうことも、SCARTSがこれから出来るといいんじゃないかと思います。

そもそも、人が芸術家として活動する時、「生計を立てられるか」「プロ・アマ」という区分を考えますけれど、実はそこは非常にグレーだと思うんですね。
これもまた北九州芸術劇場の事例で恐縮ですが、北九州芸術劇場は、「プロでも、アマでもないけれど、演劇活動を続けたい」という人を応援する取り組みを行っています。プロを目指そうとすると、やっぱり多くは東京に行っちゃう。でも、地元に残って演劇活動を続けようとする人たち、劇場の支援を受ける人たちは、「北九州にいる方が、芸術活動を続けられる」と言うんです。「東京に行った人間よりも、こちらの方が舞台に立つ機会がある」と。そのことで、生活が成り立つかと問われたら、微妙だと思いますが、その街で、演劇活動を続ける気にさせられる仕組みがあるわけです。そういうことを、SCARTSが出来ればいいのではないでしょうか。

それで1つ、突拍子もないというか、ちょっと思い出したことがあります。
ニューヨーク市は、文化部がアーティスト証明書なるものを発行しているんです。その証明書をもらうと、ニューヨークの倉庫街・準工業地帯など、通常は居住が認められていないエリアに住めるんです。なぜなら、アーティストは広い空間が必要だから。
それで、証明書を出す条件は、プロ・アマは全く関係ないんです。その人が芸術活動をやり続けているかどうか。「自分は芸術活動を続けている」ことを示せると、証明書が出るんですね。だから、SCARTSで、そういうものを出せたらいいんじゃないでしょうか?(会場が少し沸く)
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芸術家証明書をもらった人が、何か、何だろうなぁ…何かがないと、簡単には出せないとは思うんですが。とにかく、札幌で芸術活動を続けることを決断できる、後押しできる仕組みを考えると、まだまだ一杯あるんじゃないでしょうか。そういうことを、SCARTSだけでは大変なので、皆さんの施設と協力して出来たらいいなと思いました。

松本(桜):面白いアイデアですね(笑)。札幌の街でそういうことが起こると、また違う局面に行けるように思います。SCARTSのラーニングプログラムも、「プロとして生計を立てたい」という方はもちろん、「長く文化芸術に携わって人生を歩みたい」という方が増えたらいいな、という思いがあります。たとえば、小さい頃に習い事や鑑賞の経験があって、「芸術が好きだった」という方が、たとえプロにはなれなくても、その道を諦めてしまったとしても、それで文化芸術を嫌いになって離れるのではなくて、ずっと好きで何らかの形で関われる、そんな“関わりしろ”が増えると、まちがもっと豊かになると思うんです。

そろそろ終了の時間となりました。最後にゲストの皆さんから一言ずつ、アートセンターミーティングを通した気づきなどをいただければ嬉しいです。

渋谷:月並みな言い方ですけれど、人はやはり一人では生きられなくて。何か悩みや困ったことがあった時に相談できる相手がいっぱいいればいるほど、生きやすくなるのではと思います。知り合えたこの機会を活かして、私も今後皆さんを頼っていきたいと思います。よろしくお願いします。

上杉:思い付きなので、この場では決められませんけれど、札幌市市民活動サポートセンターの情報誌「しみサポ」にSCARTSで活動されている市民活動系の方を紹介するようなコラボができないかなと思いました。市民活動に特化した情報誌って、あまりないんです。70号を超えた媒体なので、団体のPRにつながるでしょうし、札幌の芸術活動の充実にも寄与できるのではないかと感じました。

松本(弘):「ここ(※札幌市図書・情報館1階)が、Youth⁺のロビーだったらいいな~」「センターを飛び出して、ここがロビーだったら、若者たちはどんなに居心地よく過ごせるだろう」と思って、私は眺めていました(笑)。このプラザ2階にも多くの若者がいると聞き、そこに対しても、私たちが出張してアプローチできればいいなとも感じました。勉強したい方にはお邪魔かもしれませんが(笑)、何かきっかけが作れるのではと思います。Youth⁺では仕事に関する座談会をすることもあるので、札幌市図書・情報館とつながることも出来そうです。小さな連携を積み重ねることを大切にしていきたい。今回のご縁をきっかけに、小さなことでも取り組めれば嬉しいです。

吉本:アートセンターミーティングは今回4回目で、今日はこういう枠組みで議論ができて、また、アートセンターの可能性が広がったな、と思います。「SCARTS 松本さん、仕事が増えますね」とも(笑)。今日、この会場に関心のある方がこれだけいらっしゃったことにも可能性を感じました。ありがとうございました。

松本(桜):ありがとうございます。施設にはそれぞれ特性があり、取り組んでいることも違うんですけれど、「やりたい」に対して、そっと背中を押し、一歩踏み出すきっかけを作るという共通点が見えました。今日をきっかけに、登壇くださった方の施設とはもちろん、フロアにお越しくださった皆さんとも交流・接点を持ち、つながりを作りながら、札幌の街に多様な支援の形があることを、もっと広く知っていただくような取り組みをしていきたい。そして、いずれ大きな支援の輪が札幌の街に広がればいいなと思います。今日の学びを我々SCARTSも生かし、活動支援事業に取り組みたいと思います。最後にゲストの皆さまに拍手をお願いします。
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※12 1904-88年。20世紀を代表する日系アメリカ人の彫刻家。札幌には最晩年に手掛けた総合公園「モエレ沼公園」や大通公園の滑り台「ブラック・スライド・マントラ」がある。

文:新目七恵
photo: Asako Yoshikawa

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