SCARTS 企画公募 2023

1-4  㐂久一2代目隆起氏と彼が遺した画帳など
5   伊藤隆道《空と地の軌跡》
6   伊藤千織 ペーパーリース
7   伊藤隆介「Realistic Virtuality」シリーズ(撮影:小牧寿里)

戦後の暮らしぶりが垣間見える親類同人誌「しんるい」は必見

札幌市中央区の山鼻・行啓通界隈で商いを始めて、今年で100周年。地域密着型の仕出し料理店として愛されてきた㐂久一(きくいち)本店には、知る人ぞ知る、もう一つの顔があります。 それは当主である伊藤家の一族から、美術やデザインに携わる人材が数多く輩出されていること。絵画や彫刻をはじめ、漆工芸、立体造形、テキスタイル、映像、グラフィックデザイン、照明デザイン、グラフィティアートなど、多彩なジャンルのアーティストが活躍しています。

この展覧会では、伊藤家が所蔵する膨大な写真や資料と、ゆかりの作家陣のさまざまな作品を展示。大正から昭和、平成、令和にかけて、一族が紡いだ暮らしとアートの営みが立ち上がります。 「本店には昔からステージ付きの大広間があるんですが、何かにつけて集まって、パフォーマンスを披露したり、オヒネリが飛んだり。元々が商店街の仕出し屋ですので、人を喜ばせるのが大好きな家風なんですね」 そう話すのは、仕掛け人であるプロダクトデザイナー/アートディレクターの伊藤千織氏。㐂久一と伊藤家の記録をアーカイブ化して未来につなぐミッションを担っています。

構成は、貴重な写真や所蔵品で店とまちの歩みを振り返る第1部、2代目の隆起氏が遺した戦中から晩年までの絵画や造形作品をそろえた第2部、そして20代から80代までの現役作家の作品で過去と未来をつなぐ第3部が交錯する展示を予定しています。 「見どころは祖父の隆起が戦時中に移住した海南島での生活や従軍体験を記した画帳や、今回新たに見つかった親類同人誌でしょうか。祖父は常に手を動かして何かを作っている人で、㐂久一の木彫看板や弁当の掛け紙の図案も自作しています。そんなのものづくりのDNAが私たちに受け継がれているのかもしれませんね」

伊藤家のファミリーヒストリーは、観客一人ひとりの家族の物語とクロスオーバーするはず。 「ご自身の家族の歴史やストーリーと重ね合わせて見てもらえれば。幕の内弁当のような楽しい展示にしたいと思っています」

1   伊藤隆道《空と地の軌跡》
2   伊藤隆介「Realistic Virtuality」シリーズ(撮影:小牧寿里)
3   伊藤千織 ペーパーリース

伊藤千織
プロダクトデザイナー/アートディレクター
1966年札幌市生まれ。90年女子美術大学産業デザイン科卒業。92~94年政府給付生としてデンマーク王立芸術アカデミー建築学校に留学し、家具・空間デザインを学ぶ。99年伊藤千織デザイン事務所を設立。「もの・こと・ば」のデザインをテーマに、空間プロデュースから製品開発、造形デザインまで、幅広いジャンルの創作活動を展開している。北海学園大学、東海大学非常勤講師。(一社)北海道デザイン協議会会員。

㐂久一本店(有限会社 喜久一)
1923(大正12)年創業、札幌市中央区に店舗を構える仕出し料理専門店。創業者である伊藤孝一から現在の4代目伊藤隆彦まで、家族経営を続けている老舗。一方で2代目の伊藤隆起をはじめ、美術・アートの作家や美術教育に携わる人材を多数輩出している。
https://kikuichihonten.com

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