■北海道大学 CoSTEP とは? ※1
北海道大学 CoSTEPは、サイエンスコミュニケーション
(科学と社会をコミュニケーションでつなぐ活動)の促進に取り組む教育・実践・研究組織。
CoSTEPは日本で最大級のサイエンスコミュニケーション教育プログラムを運営している。
■プレコンセプションケア とは? ※2
「プレコンセプションケア」とは、
「将来の妊娠・出産を見据えたライフデザインと健康管理」のこと。
■北海道大学 CoSTEP とは? ※1
北海道大学 CoSTEPは、サイエンスコミュニケーション(科学と社会をコミュニケーションでつなぐ活動)の促進に取り組む教育・実践・研究組織。
CoSTEPは日本で最大級のサイエンスコミュニケーション教育プログラムを運営している。
■プレコンセプションケア とは? ※2
「プレコンセプションケア」とは、「将来の妊娠・出産を見据えたライフデザインと健康管理」のこと。

市原佐都子
劇作家・演出家・小説家・城崎国際アートセンター芸術監督。2011年より劇団Q始動。人間の行動や身体にまつわる生理、その違和感を独自の言語センスと身体感覚で捉えた劇作、演出を行う。2011年、戯曲『虫』にて第11回AAF戯曲賞受賞。2019年に初の小説集『マミトの天使』を出版。同年『バッコスの信女 ─ ホルスタインの雌』をあいちトリエンナーレにて初演。同作にて第64回岸田國士戯曲賞受賞。2021年、ノイマルクト劇場(チューリヒ)と共同制作した『Madama Butterfly』をチューリヒ・シアター・スペクタクル、ミュンヘン・シュピラート演劇祭、ウィーン芸術週間他にて上演。2023年、『弱法師』を世界演劇祭(ドイツ)にて初演。
Interview
粘菌とAIが奏でる二つの独白
——市原さんは、2024年8月に「プレコンセプションケア」をテーマにしたオープンミーティングに参加して以来、1年半ほどかけて、このプロジェクトに取り組んできました。
この企画に携わるまで「プレコンセプションケア」という言葉を知りませんでした。24年のイベントで荒木悠さん(アーティスト・映画監督)と一緒に登壇し、公衆衛生学や産婦人科の先生方のプレゼンテーションを伺ったのがスタートでした。
科学が進歩していろいろなことが可能になっているという、特に若い方たちに知ってほしい素晴らしい内容でしたが、同時に違和感もありました。
そもそも子どもを産むってどういうことなのか。将来に備えた計画的な健康管理はもちろん大事ですが、もっと大きくそのことを捉えてみたい。というか、科学が進歩すれば、今の悩みはすべて解決されるのでは? そうすると「プレコンセプションケア」という考え方も意味がなくなる? そんなことを思ったりしました。
私はこれまで、生殖やルッキズムにまつわることを戯曲や演劇に落とし込んできました。その延長として、将来的に科学が進歩すれば、どんな子どもの産み方があり得るのだろうか、またデザイナーベイビーをつくるとしたら、どのような子どもをつくりたいか、といったことに興味が湧いてきました。


——北海道大学の研究者を対象にリサーチを行いました。
繁富(栗林)香織先生(北海道大学大学院教育推進機構准教授)が取り組んでいる折り紙の技術を不妊治療に役立てる話、iPS細胞の話、研究者としての倫理観の話には、とても想像力をかき立てられました。私も現実から飛躍させたフィクションを描いてきましたが、先生の研究は私の創作ともつながる部分が多いと感じました。
そして、粘菌を研究している中垣俊之先生(北海道大学電子科学研究所教授)の研究所も訪ねました。そこで顕微鏡を通して、単細胞生物や粘菌(モジホコリ)を観察し、その人間とはかけ離れた存在に強い刺激を受けました。こうした人間とはかけ離れた生殖をする生物の存在は、人間の生殖や生き方をまた違う角度から捉え直すことにつながります。ぜひ作品に取り入れてみたいと感じました。
——札幌市内の学校の合唱部も訪ねています。
リサーチの一環として高校の合唱部を見学させていただきました。当初、「プレコンセプションケア」についての合唱曲の歌詞を私が書いて、どなたかが作曲し、それを合唱部の方々に歌ってもらうというアイデアがあったからです。
しかし一連のリサーチを経て、粘菌やiPS細胞の話に触発されたことで、人間ではないものの声を書いてみようと思い立ち、二つのモノローグを書き下ろしました。
ひとつは肉体のない声(生まれないことにした声)、もうひとつは肉しかない声(シャーレのうえで培養されている人工肉の声)。自分と他人の境界線が曖昧になることの恐怖や、自分のありかたについて語っています。そしてそのモノローグの上を粘菌が這って、それが合唱曲として響いたら? そんなイメージが浮かんだのです。
——粘菌と合唱とは、思いも寄らない組み合わせですね。
合唱は複数人がそれぞれのパートの役割をこなすことで、全体に美しいハーモニーとなりますが、それが粘菌の姿と重なって見えました。粘菌は単細胞生物ですが、ひとつの個体なのか、集団なのかというのが曖昧な存在で、ひとつの塊の中にそれぞれの役割があり、全体を成しているという性質があります。
そしてまた、粘菌はAIのようでもあると思いました。さまざまな情報から行動を最適化するところ、個体なのか集団なのかが曖昧に見えるところなどが、特徴として重なります。そこで学生の合唱ではなく、人間ではないAIを使って、粘菌の合唱のようなものをつくれないだろかというアイデアが浮かびました。
これまで演劇に合唱を取り入れたり、作品のほぼ全編をAIの自動読み上げ機能を使って演出したりしたこともありますが、今回はそれとはまったく違うものになると思います。アーティストの岸裕真さんと協働することで、私の想像を超えた作品が生まれそうです。
——展示作品の概要をご紹介ください。
私のこれまでの演劇でも「プレコンセプションケア」と関連することを扱ってきたので、過去の作品も上映されると思います。それに加えて、今回の新作である合唱曲やモノローグを展示する予定です。合唱がどんなものになるかはまだ未知です。今回は私がテキストとコンセプトを考えて、岸さんが作品を形にする演出家のような役割を担ってくれます。岸さんたちは改めて北大の中垣先生の研究所を訪れ、展示で使う素材を集めたりしています。
——SCARTSとの連携についてはいかがですか。
SCARTSの皆さんはとても協力的で、一緒に少しずつこのプロジェクトを進めてきました。演劇は限られた観客の前で見せる芸術ですが、今回初めて展示をさせてもらうことが、とても楽しみです。さまざまな人が行き来する場所なので、もしかするとこのテーマに興味のない方も見てくださるかもしれません。そんな不意の出合いがあるといいなと思っています。


——最後に読者の皆様へ向けてメッセージを。
原生生物の粘菌とテクノロジーが似ているという気づきは、私にとって非常に有意義な発見でしたし、その手応えは少しずつ確信へと変わりつつあります。これまでにない面白い空間になると思いますので、ぜひ会場へお越しください。
SCARTS x CoSTEP アート&サイエンスプロジェクト
市原佐都子
「肉の上を粘菌は通った」
2026 1.31[土]- 2.11[水・祝]
SCARTSコート/スタジオ1・2/モールA・B・C
[入場無料] 10:00-17:00
高校生向けのワークショップツールを開発中!
札幌文化芸術交流センター SCARTSは、北海道大学CoSTEPと連携して、高校の授業で活用できるワークショップツール(教材)の開発に取り組んでいます。
この事業は、より多くの生徒に学びの機会を届ける新たな方法を模索する中でスタートしました。STEAM教育の考え方を取り入れ、双方向的な手法で生徒の主体的な学びを促進するのが主な狙いです。
現在、制作中のツールは「プレコンセプションケア」がテーマ。一見、専門的で遠く感じるテーマを、アートと科学の視点から身近な問いへと翻訳し、自分自身の未来や社会との関係を想像しながら考える力を育みます。
ツールは、ガイドブックやライフイベント(恋人探し/健康習慣/結婚/出産/育児+仕事)のアイテム、年表、お助けカード(約50枚)などで構成。今年度中にプロトタイプを完成させ、来年度以降も高校でのワークショップや教員向けレクチャーを通じて、ブラッシュアップしていく予定です。
