2025
AUG-SEP

8-9

10月4・5日、札幌文化芸術劇場 hitaru〈ヒタル〉にて、新国立劇場バレエ団「シンデレラ」が上演されます。
公演を前に、札幌大谷大学学長で音楽学・現代ロシア音楽を専門とする千葉潤氏に、バレエ「シンデレラ」が誕生した歴史的背景や鑑賞のポイントを教えてもらいました。

千葉 潤

(音楽学・ロシア音楽)

東京藝術大学大学院音楽研究科後期博士課程満期退学、ロシア国立モスクワ音楽院大学院音楽理論科修了。2003年に芸術学カンディダート(Ph.D)取得。洗足音楽大学、くらしき作陽大学、北海道教育大学等の非常勤講師を歴任。2021年より札幌大谷大学の学長を務める。専攻は音楽学・現代ロシア音楽。著書に「作曲家人と作品 ショスタコーヴィチ」(音楽之友社)、「アリフレド・シュニトケの交響的創作:間テクスト分析の試み」(モスクワ・コンポジートル社、露語)。共編著に「ロシア音楽事典」(カワイ出版)など。

童話の主人公「シンデレラ」とは?

映画やアニメ、ミュージカルやオペラの題材として、これまでに何度もドラマ化されてきた「シンデレラ」。物語の原形は紀元前のギリシャにも見出されるほど、世界中にいろいろなバリエーションが残されていますが、作曲家プロコフィエフがバレエの台本に採用したのは、ルイ14世時代のフランス宮廷詩人シャルル・ペローによる原作でした。それによると、“灰をかぶった女の子”と呼ばれる少女が、毎日のように継母と連れ子たちからいじめられていますが、魔法使いの老婆を助けたことから美しい姫君に姿を変えてもらい、カボチャの馬車に乗って華やかな宮廷舞踏会へ出かけます。たちまち王子の愛を射止めたシンデレラでしたが、時計が真夜中の12時を打つと無残にも魔法がとけてしまい、片方のガラスの靴を残して姿を消します。しかし姫を忘れられない王子は、残された靴を手掛かりにシンデレラを探しあて、妃として宮廷に迎え入れるという物語。
それにしても、社会主義国ソヴィエトで活躍した作曲家プロコフィエフが、なぜ今さら宮廷時代の童話に基づくバレエを創作したのでしょうか?

バレエの歴史と
作曲家セルゲイ・プロコフィエフ

「バレエ」という芸術は、まさにルイ14世の庇護によってフランスで確立され、やがて作曲家チャイコフスキーや振付家プティパが活躍する19世紀の帝政ロシアで「クラシック・バレエ」に発展しました。いわば王政時代や宮廷文化を象徴する娯楽芸術だったバレエは、1917年の革命によって帝政を打倒し、社会主義国となったロシアでは当然ながら、廃絶の危機に瀕します。そこで考案されたのが、伝統的なバレエの技法に演劇的要素を融合し、社会主義の意義を表現する「ドラム・バレエ(演劇バレエ)」。革命的な題材による「赤いケシ」や「パリの炎」といった作品をきっかけにして、バレエはソ連で新しい発展を遂げていきます。
一方、ロシア革命の翌年に国外に出たプロコフィエフは、西ヨーロッパを拠点にしていたディアギレフの「バレエ・リュッス(ロシア・バレエ団)」と活動を共にしますが、革新的・前衛的なスタイルを偏重する方針に違和を強め、やがて労働者や農民を啓蒙する新しい芸術を模索していたソ連への帰国を決意します。著名な音楽家の多くが国外に移住したソ連では、世界的な作曲家プロコフィエフの帰国が大歓迎を受け、次々に企画が提案されます。なかでも大成功を収めたのが、新作バレエ「ロミオとジュリエット」。現代的な感覚と古典的な様式を融合したプロコフィエフの音楽は、シェークスピアの原作に基づく愛の悲劇を見事に表現し、ロシア・バレエの伝統をソ連に継承することに成功します。これを受けて委嘱されたのが「シンデレラ」、つまりチャイコフスキーの「眠れる森の美女」と同じく、ペローの原作によるバレエの作曲だったのです。

バレエ「シンデレラ」の見どころ・聴きどころ

あらゆる音楽語法に熟達したプロコフィエフは、多彩な音のパレットを駆使して、「シンデレラ」の物語世界を鮮やかに描き分けていきます。バレエの冒頭で奏される「序奏」は、シンデレラの不幸な日常と愛の約束を対比する二部分の音楽であり、劇の要所で繰り返し現れて、物語と音楽の流れを統合します。個々のナンバーも極めて多彩であり、第2幕「宮廷舞踏会」では、プロコフィエフ独特のひねりを加えたガヴォットやパスピエ、ブーレなどの古典舞曲の数々、王子が姫を探して諸国を遍歴する第3幕では東洋風の異国趣味の音楽が、舞台を華やかに彩ります。他方、物語の中心をなすシンデレラと王子の愛の行方は、チャイコフスキーを彷彿させる甘美なワルツの数々で表現されますが、第2幕のクライマックスを成す「真夜中」の場面では、モダニズム時代のプロコフィエフの面目躍如たる衝撃的な不協和音と奇抜な楽器法によって、巨大な時計の振り子がグロテスクに表現されます。
天才プロコフィエフによって、現代の愛の寓話としてよみがえったバレエ「シンデレラ」。その非日常的な幻想空間を、ぜひhitaruの舞台でご体験ください。

PLAZA FESTIVAL 2025
新国立劇場バレエ団

「シンデレラ」

出演:新国立劇場バレエ団
管弦楽:札幌交響楽団
振付:フレデリック・アシュトン

2025 10.4[土] 16:00開演/5[日] 14:00開演

札幌文化芸術劇場 hitaru

SS席15,000円/S席13,000円/
A席10,000円/B席8,000円/
C席 6,000円/D席 5,000円/
ペアSS席 29,000円/
ペアS席 25,000円/ペアA席 19,000円/
U25(SS席・ペア席対象外)S~D各席種2,000円引

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